安全保障を冷静に考えるためにおススメしたい本
本当に中身の詰まった、勉強になる本だなあというのが、読み終わったときの率直な感想です。本書は、2015年に安保関連法が成立した約1年後に出版された本ですが、安保関連法だけでなく、より根本的に、我が国の、そして世界の平和をいかにして保っていくのか、そのために日本は何をすべきなのか、ということなどを議論しています。
歴史的に、「力の空白」や「パワーバランスの変化」などにより戦争が繰り返されてきたという現実を前提にすれば、将来の平和を保っていくためには、「平和」を叫び、祈るだけでは十分ではない、と筆者は主張しています。東アジアで言えば、アメリカの軍事力の削減による「力の空白」を防ぐために、日本も十分な防衛力を保持する必要があるし、ルールや法の支配に基づいた国際秩序を確立するために、日本も積極的に貢献していくことが必要である、と説いています。
特に、本書の中で、私的に一番ズンと衝撃を受けたのが、憲法9条の「平和主義」などを主張することにより、世界平和を確保できる、との主張に対する、以下の筆者の指摘です。少し長いですが、引用します。
自らの善意、自らの憲法、自らの政策こそが正義であり、また独立変数であって、それらによってこそ世界平和が確保できると考えることは、安全保障政策をめぐる自国中心的な「天動説」である。他国には他国の国内政治的な論理があり、政策があり、歴史がある。他国が安全保障政策を展開する際に、日本の憲法九条の平和主義の理念や、安保法制を見て、それだけを理由にして重たい政治的決断を行うと考えることは、あまりにも非現実的である。(p.152)
確かに、平和を願うことは重要ですが、それを現実として達成・維持していくために、日本は何をすべきなのかということを、もっと冷静に議論する必要があるのだろうと考えさせられました。
本書は、国際関係の歴史的考察や、日本の取るべき政策に加え、2015年の安保関連法についても、憲法や国際法との関係を含めて議論されており、この一冊で、安全保障についての様々な側面を学ぶことができます。
最後に、巻末には、安保関連法、安全保障政策、憲法と国際法などについての文献案内があり、また、本書とは主張を異にする文献も含めて掲載されているのも好感が持てます。以前レビューした『北朝鮮入門』と同じく、本書を出発点として、またいろいろな本を買ってしまいそうな気がします(^^;)
本当に中身が濃く、それでいて冷静かつわかりやすく議論が展開されているため、また読み返したい、と思わせてくれる本です。日本の安全保障に関心のある方には、ぜひおススメしたい1冊です。
安保論争
細谷 雄一
夫
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