外国文学 小説

エイジ・オブ・イノセンス:不幸な三角関係って分かっているはずなのに…

投稿日:2019年4月29日

エイジ・オブ・イノセンス 汚れなき情事-イーディス・ウォーデン-idobon.com

エイジ・オブ・イノセンス
人生白黒そんなにはっきりしているもんじゃない。そんな複雑さを良く表現している

**ネタバレ注意**

映画にもなったこの小説、言ってしまえば19世紀版不倫小説なんです。悩み事を打ち明けたのがきっかけに、急激に意識し出す既婚男性アーチャーと別居中の女性、エレン。お互いに惹かれ合い、駆け落ちも考えるが、アーチャーの心変わりに気がついた妻が健気で地道な努力をして不倫を阻止させる…皆が不幸になるのが分かっている、不倫小説なのに何故か、なんでアーチャーとエレンが不倫の関係になったか理解してしてあげたいと思わせてしまう、そんな描き方をするのが自身も不倫関係があったことがあるという、イーディス・ウォートン。

19世紀ニューヨークの社交界で退屈し、精神の関係を求めるアーチャー・ニューランドは、旦那から逃れてヨーロッパからニューヨークに来た、アーチャーのいとこにあたるエレン・オレンスカ伯爵夫人と不倫関係になります。こうやって書き出してみると突っ込みどころ満載 笑。え?!いとこと不倫関係?それってタブーにタブー重ねてない?!

決まりだらけで堅苦しいニューヨークの社交界に生きるアーチャーは、自由奔放なエレンに惹かれます。その慣習としがらみに縛られた当時のニューヨーク社会は少し、日本の社会を連想させるかも。

エレンに惹かれていると気がついた時、アーチャーはメイという婚約者がいました。誰もアーチャーとメイを強制的に結婚させた訳ではないんです。エレンに惹かれていると気付いた時点でアーチャーはメイとの婚約を破棄し、エレンの離婚を待つべきだった、と言ってしまえば簡単でちゃっちいロマンス小説に成り下がりそうですが、なぜかそうは感じさせない表現力を持って迫られます。

本小説を通して、アーチャーは他の不倫関係を持っている男性と自分は違うんだ、と言い続けます。それは、アーチャーが自分自身にそう言い聞かせ、メイに不貞を働いていることの罪悪感を消そうと努めているかのように聞こえます。メイとの精神の繋がりのなさをメイの能力不足のせいにし、そういった共通の心の繋がりがあったら自分はエレンに惹かれなかった、と言うアーチャー。その姿は不倫関係に陥る男性の全てに共通する言い訳のように聞こえます。夫として、メイの能力不足を補い、アーチャーの趣味である読書や旅行などの関心をメイの中に育んであげるよう努力すべきなのはアーチャーなのに。

結局、アーチャーとエレンの関係はエレンがニューヨークを旅立つのをきっかけに終わりますが、不倫関係が終わった後の3人の関係は、びっくりするほど現実的に描かれていると思います。
30年後、メイを病気でなくし、アーチャーはたまたまパリでエレンとの再会しそうになります。しかし、アーチャーはエレンには会わずに終わります。きっと、アーチャーはエレンの幻想に惹かれ、自分の心の中に作り上げた虚のエレンに恋していたのに気付き、現実に立ち向かうことは避けたのでしょう。

ウォートンは日本ではあまり読まれていないようで、訳も少ないけれど、一読する価値、あります。


 

エイジ・オブ・イノセンス 汚れなき情事-イーディス・ウォーデン-idobon.com

エイジ・オブ・イノセンス 汚れなき情事
イーディス・ウォーデン

Amazonで見る
The following two tabs change content below.

妻の姉

歴史小説や古典、社会学系の本など、幅広く読む。ウエディングドレスデザイナーなのでファッション系の本も好き。妹以上にモノを増やしたくない派なので、本は基本的に図書館で借りる。2児の母。時には辛口レビューを書くこともある。
▼ブログランキング参加中。クリック応援お願いします♪
にほんブログ村 本ブログへ にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ にほんブログ村 本ブログ おすすめ本へ

-外国文学, 小説
-


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

関連記事

モデラート・カンタービレ:短いけど不思議な感覚を残す小説

フランス語で読もうとしたが挫折… 私はフランス語を勉強しています。フランス語は、英語の10倍以上難しく感じます。特に文法。名詞に男性と女性があるし、その名詞が文中にいる時は、形容詞もそれに合わせなくて …

パリ行ったことないの-山内マリコ

パリ行ったことないの:やりたいことを始めるのに待たなくてもいいのだと思わされる

やりたいことを始めるのに待たなくてもいいのだと思わされる 友達がオススメしてくれたこの本、タイトルと表紙の絵が可愛くてすぐさま読んでみたい気持ちになりました。数時間でサクっと読める短い小説です。 スト …

贖罪の奏鳴曲 御子柴礼司 ソナタ 中山七里

贖罪の奏鳴曲(ソナタ):悪人か善人か分からない主人公の行動から目が離せない

主人公、いい奴なの?悪い奴なの?最後まで分からない! ストーリーは、主人公である利き腕の弁護士御子柴(みこしば)が、とある男の死体を処理するところから始まります。弁護士らしからぬ怪しい行動を取ったり、 …

嵐が丘<上>-E・ブロンテ-idobon.com

嵐が丘:恋愛小説で終わらない、もっと普遍的な題材を扱っている小説

嵐が丘 「リア王」、「白鯨」と並んで三代悲劇と言われた本に希望を見出す 「次、何読もう?」と常に考えています。そして、良書を探すためにはいつもアンテナを張っています。読書家の友達からのおすすめだったり …

ピンクとグレー-加藤シゲアキ-idobon.com

ピンクとグレー:スピード感のある物語だが・・・ネタバレ注意

ティーネイジャーにはうけるのかも。でも深みに欠ける感はぬぐえない 14歳のおともだちから勧められました。最近読んだ本で、これ面白かったよって。アイドルが書いた本だそうで、読むの気乗りしなかったのですが …