エイジ・オブ・イノセンス
人生白黒そんなにはっきりしているもんじゃない。そんな複雑さを良く表現している
**ネタバレ注意**
映画にもなったこの小説、言ってしまえば19世紀版不倫小説なんです。悩み事を打ち明けたのがきっかけに、急激に意識し出す既婚男性アーチャーと別居中の女性、エレン。お互いに惹かれ合い、駆け落ちも考えるが、アーチャーの心変わりに気がついた妻が健気で地道な努力をして不倫を阻止させる…皆が不幸になるのが分かっている、不倫小説なのに何故か、なんでアーチャーとエレンが不倫の関係になったか理解してしてあげたいと思わせてしまう、そんな描き方をするのが自身も不倫関係があったことがあるという、イーディス・ウォートン。
19世紀ニューヨークの社交界で退屈し、精神の関係を求めるアーチャー・ニューランドは、旦那から逃れてヨーロッパからニューヨークに来た、アーチャーのいとこにあたるエレン・オレンスカ伯爵夫人と不倫関係になります。こうやって書き出してみると突っ込みどころ満載 笑。え?!いとこと不倫関係?それってタブーにタブー重ねてない?!
決まりだらけで堅苦しいニューヨークの社交界に生きるアーチャーは、自由奔放なエレンに惹かれます。その慣習としがらみに縛られた当時のニューヨーク社会は少し、日本の社会を連想させるかも。
エレンに惹かれていると気がついた時、アーチャーはメイという婚約者がいました。誰もアーチャーとメイを強制的に結婚させた訳ではないんです。エレンに惹かれていると気付いた時点でアーチャーはメイとの婚約を破棄し、エレンの離婚を待つべきだった、と言ってしまえば簡単でちゃっちいロマンス小説に成り下がりそうですが、なぜかそうは感じさせない表現力を持って迫られます。
本小説を通して、アーチャーは他の不倫関係を持っている男性と自分は違うんだ、と言い続けます。それは、アーチャーが自分自身にそう言い聞かせ、メイに不貞を働いていることの罪悪感を消そうと努めているかのように聞こえます。メイとの精神の繋がりのなさをメイの能力不足のせいにし、そういった共通の心の繋がりがあったら自分はエレンに惹かれなかった、と言うアーチャー。その姿は不倫関係に陥る男性の全てに共通する言い訳のように聞こえます。夫として、メイの能力不足を補い、アーチャーの趣味である読書や旅行などの関心をメイの中に育んであげるよう努力すべきなのはアーチャーなのに。
結局、アーチャーとエレンの関係はエレンがニューヨークを旅立つのをきっかけに終わりますが、不倫関係が終わった後の3人の関係は、びっくりするほど現実的に描かれていると思います。
30年後、メイを病気でなくし、アーチャーはたまたまパリでエレンとの再会しそうになります。しかし、アーチャーはエレンには会わずに終わります。きっと、アーチャーはエレンの幻想に惹かれ、自分の心の中に作り上げた虚のエレンに恋していたのに気付き、現実に立ち向かうことは避けたのでしょう。
ウォートンは日本ではあまり読まれていないようで、訳も少ないけれど、一読する価値、あります。
エイジ・オブ・イノセンス 汚れなき情事
イーディス・ウォーデン
妻の姉
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