社会・政治

分断されるアメリカ:アメリカの「分断」についての考えをひっくり返してくれる刺激的な書!

投稿日:2018年2月14日

分断されるアメリカ-サミュエル ハンチントン-idobon.com

アメリカの「分断」についての考えをひっくり返してくれる刺激的な書!:分断されるアメリカ

昨年、トランプ大統領が就任する前後で文庫版で復刊され(最初の翻訳出版は2004年)、話題となった本書。著者は、『文明の衝突』などの著作で有名な米国の国際政治学者、故サミュエル・ハンチントン教授。元々『文明の衝突』のファンであったワタクシは、文庫版を本屋で見かけ、ミーハー魂もくすぐられ即購入。しかし文庫本とは言え、合計600頁に近く、かなりのボリュームですね(;^ω^)

この本には衝撃を受けました。よくテレビや新聞では、トランプ大統領の過激な移民政策等によって、アメリカが分断された、という言い方をよくされますが、筆者は、すでに2004年の時点で、アメリカはすでにかなり分断された状態であったと指摘しています。

賛否両論はあるかと思いますが、筆者の考えでは、アメリカはイギリスから入植(移民ではない)してきたアングロ・プロテスタントによって作られた国であり、そこから、現在のアメリカの主な価値観である自由、民主主義、法の支配などが生まれてきたとしています。このアングロ・プロテスタントの文化を放棄し、様々な宗教や文化からなるいわゆる「多文化のアメリカ」となれば、「異なる文化グループごと(例えばヒスパニックや中国系など)に、その特定の文化に根差した特有の政治的価値観と原則を信奉するようになるだろう」とと述べています。

確かに、カリフォルニア州にはすでにスペイン語しか通じない地域があり、フロリダなども、キューバ系移民が大多数となっている地域があるので、今後、それらの地域が、最近スペインのカタロニアで見られたような独立運動に発展する可能性もないとは言えないような気がします。つまり、トランプ大統領がいようがいまいが、アメリカはすでに「分断」されてきたのであり、おそらくトランプ大統領が退任した後も、今後もアメリカは「分断」され続けていく、ということですね。

最後に、筆者は、分断を止めるためにはアングロ・プロテスタントの文化の復権が必要、との旨の主張をしていますが、果たしてそれが今後のアメリカで可能なのか、注目していきたいですね。

こういう、メディアなどで一般的に言われているような価値観をひっくり返してくれる本は大好きです。しかも、主張が新鮮であるだけでなく、その主張を裏付けつための証拠集めも、学者ならではの綿密さで行われているため、非常に勉強になります。著者の主張に賛成するか否かは別として、知的興奮を湧き起こしてくれる良書であると思います。

約600頁の、しかも内容がやや硬い文章で、読むのにやや覚悟がいりますが(笑)、その価値は十分にあると思います。

 


 

分断されるアメリカ-サミュエル ハンチントン-idobon.com

分断されるアメリカ
サミュエル・ハンチントン(Samuel Phillips Huntington)

Amazonで見る 楽天で見る

 

 

The following two tabs change content below.

国際関係、政治、哲学、古典に関する本が大好物。読書は絶対紙派(電子はちょっと苦手なのです…)。アコースティックギターが趣味で夜な夜な練習にいそしんでいる。ツンツンヘアがトレードマークで、ヘアカットをするときのお決まりの注文は「横と後ろはバリカンでトップは短く」。
▼ブログランキング参加中。クリック応援お願いします♪
にほんブログ村 本ブログへ にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ にほんブログ村 本ブログ おすすめ本へ

-社会・政治
-


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

関連記事

平和主義とは何か - 政治哲学で考える戦争と平和 松元 雅和

平和主義とは何か:平和主義とは何か:冷静に平和主義を考えるために

平和主義の入門書の決定版 本書は平和主義に同調する人、もしくはその主張に必ずしも同意しない人にも進められる、平和主義の入門書の決定版といえるのではないでしょうか。 本書の主な内容は以下のとおりです。 …

夫とは、したくない。セックスレスな妻の本音-二松まゆみ-idobon.com

夫とは、したくない:セックスレスはあなただけじゃない

30代、40代の夫婦の寝室事情のリアルが語られる 夫とセックスしたくない妻の座談会。好きで結婚したのに、なぜセックスしたくなくなるのか。なぜ、夫に拒まれるのか。どうやって解決しようと心がけているのか。 …

嫌韓流-山野 車輪 -idobon.com

マンガ 嫌韓流:素直に面白い

タイトルはやや過激ですが、内容は意外とマトモ? 本書は2005年に出版されたやや古い本(マンガ)ですが、久々に読み返してみて、やっぱり面白かったのでレビューすることにしました。 まあ、なんというか、ま …

米中もし戦わば-入門 論文の書き方-ピーター ナヴァロ (著),‎ 赤根 洋子 (翻訳)-idobon.com

米中もし戦わば:米中関係の知識整理にうってつけ

一見タイトルは激しいが内容はまとも 何とも刺激的なタイトルですね(^-^; しかも、著者がトランプ大統領の政策顧問であることから、内容もかなり刺激的な内容になっている。。。かと思いきや、本書で述べられ …

On China-Henry Kissinger-idobon.com

On China(邦訳タイトル:中国):重鎮キッシンジャー氏による長大な中国論

不満な点もあるが、面白い 本書の著者は言わずと知れた米国政治界の重鎮、ヘンリー・キッシンジャー氏です。キッシンジャー氏は大統領補佐官や国務長官を歴任し、1970年代の米中国交正常化にも当事者として深く …