アメリカの「分断」についての考えをひっくり返してくれる刺激的な書!:分断されるアメリカ
昨年、トランプ大統領が就任する前後で文庫版で復刊され(最初の翻訳出版は2004年)、話題となった本書。著者は、『文明の衝突』などの著作で有名な米国の国際政治学者、故サミュエル・ハンチントン教授。元々『文明の衝突』のファンであったワタクシは、文庫版を本屋で見かけ、ミーハー魂もくすぐられ即購入。しかし文庫本とは言え、合計600頁に近く、かなりのボリュームですね(;^ω^)
この本には衝撃を受けました。よくテレビや新聞では、トランプ大統領の過激な移民政策等によって、アメリカが分断された、という言い方をよくされますが、筆者は、すでに2004年の時点で、アメリカはすでにかなり分断された状態であったと指摘しています。
賛否両論はあるかと思いますが、筆者の考えでは、アメリカはイギリスから入植(移民ではない)してきたアングロ・プロテスタントによって作られた国であり、そこから、現在のアメリカの主な価値観である自由、民主主義、法の支配などが生まれてきたとしています。このアングロ・プロテスタントの文化を放棄し、様々な宗教や文化からなるいわゆる「多文化のアメリカ」となれば、「異なる文化グループごと(例えばヒスパニックや中国系など)に、その特定の文化に根差した特有の政治的価値観と原則を信奉するようになるだろう」とと述べています。
確かに、カリフォルニア州にはすでにスペイン語しか通じない地域があり、フロリダなども、キューバ系移民が大多数となっている地域があるので、今後、それらの地域が、最近スペインのカタロニアで見られたような独立運動に発展する可能性もないとは言えないような気がします。つまり、トランプ大統領がいようがいまいが、アメリカはすでに「分断」されてきたのであり、おそらくトランプ大統領が退任した後も、今後もアメリカは「分断」され続けていく、ということですね。
最後に、筆者は、分断を止めるためにはアングロ・プロテスタントの文化の復権が必要、との旨の主張をしていますが、果たしてそれが今後のアメリカで可能なのか、注目していきたいですね。
こういう、メディアなどで一般的に言われているような価値観をひっくり返してくれる本は大好きです。しかも、主張が新鮮であるだけでなく、その主張を裏付けつための証拠集めも、学者ならではの綿密さで行われているため、非常に勉強になります。著者の主張に賛成するか否かは別として、知的興奮を湧き起こしてくれる良書であると思います。
約600頁の、しかも内容がやや硬い文章で、読むのにやや覚悟がいりますが(笑)、その価値は十分にあると思います。
分断されるアメリカ
サミュエル・ハンチントン(Samuel Phillips Huntington)
夫
最新記事 by 夫 (全て見る)
- Naked Economics(経済学をまる裸にする):すべての経済オンチに贈る最高の入門書 - 2022年11月2日
- 平和主義とは何か:平和主義とは何か:冷静に平和主義を考えるために - 2020年2月14日
- 自分の時間:限られた時間で自分を高める方法 - 2020年2月7日