外交・国際関係 社会・政治

American Grand Strategy and East Asian Security in the Twenty-First Century:反主流的な東アジア安全保障論

投稿日:2019年5月19日

American Grand Strategy and East Asian Security in the Twenty-First Century-David C. Kang-idobon.com

American Grand Strategy and East Asian Security in the Twenty-First Century
論旨が非常にわかりやすく、研究のお手本にもなる優れた本

本書の主題は、題名にもあるとおり、東アジアの安全保障と米国の戦略です。しかし、本書は、米国において主流である、中国に対抗して軍事プレゼンスや同盟関係の強化を唱える主張には与しません。むしろ、米国は東アジアにおいて、軍事面では紛争抑止などの最小限の役割にとどめ、むしろ経済、外交関係の取り組みに注力すべきという、非主流派に属する主張を展開します。

このような主張の土台にあるのは、東アジアの国々は中国を脅威に感じておらず、米国とも中国ともうまくやっていきたいと考えている、という認識です。本書はこの認識を様々なデータをもって立証していきます。国防費の推移、導入している防衛装備品の種類、首脳会談の傾向などを詳細に分析して、東アジアの国々がもし本当に中国を脅威と感じているのだったら、こういう傾向がみられるはずなのに実はそうはなっていないという、仮説検証のお手本のような形で議論を進めていきます。

このようなデータをもとに、本書の結論として、東アジアの国々は中国の封じ込めなどの対中強硬路線に同調する可能性は低く、米国がそのような政策を追求するのは東アジアで孤立を招くだけだとしています。したがって、米国は対中封じ込め等ではなく、中国や東アジアの国々に対し外交的・経済的な取り組みを強化する方が米国の利益にかなっている、と主張します。

本書の結論にたとえ同意しなくても、根拠となるデータがしっかり示されているため、どこどこの根拠のこのような解釈に同意できないなど、東アジアの安全保障に関する自らの見方を確認できる格好の材料となるでしょう。

本書の分析手法はとても分かりやすく、また、自分で論文を書く際にも、ぜひお手本にしたいと思わされます。そういう意味で、単に読んで知識を得る以上のものが得られるお得な1冊だと思います。


 

American Grand Strategy and East Asian Security in the Twenty-First Century-David C. Kang-idobon.com

American Grand Strategy and East Asian Security in the Twenty-First Century
David C. Kang

Amazonで見る 楽天で見る
The following two tabs change content below.

国際関係、政治、哲学、古典に関する本が大好物。読書は絶対紙派(電子はちょっと苦手なのです…)。アコースティックギターが趣味で夜な夜な練習にいそしんでいる。ツンツンヘアがトレードマークで、ヘアカットをするときのお決まりの注文は「横と後ろはバリカンでトップは短く」。
▼ブログランキング参加中。クリック応援お願いします♪
にほんブログ村 本ブログへ にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ にほんブログ村 本ブログ おすすめ本へ

-外交・国際関係, 社会・政治
-


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

関連記事

大本営参謀の情報戦記 情報なき国家の悲劇-堀 栄三-idobon.com

大本営参謀の情報戦記―情報なき国家の悲劇:インテリジェンスから見る太平洋戦争の反省

インテリジェンスについて耳の痛いアドバイスが満載 本書は、太平洋戦争中、陸軍のインテリジェンス部門に勤務していた筆者が、インテリジェンスの観点から太平洋戦争を振り返る本です。平易な口調で語られる、読み …

嫌韓流-山野 車輪 -idobon.com

マンガ 嫌韓流:素直に面白い

タイトルはやや過激ですが、内容は意外とマトモ? 本書は2005年に出版されたやや古い本(マンガ)ですが、久々に読み返してみて、やっぱり面白かったのでレビューすることにしました。 まあ、なんというか、ま …

分断されるアメリカ-サミュエル ハンチントン-idobon.com

分断されるアメリカ:アメリカの「分断」についての考えをひっくり返してくれる刺激的な書!

アメリカの「分断」についての考えをひっくり返してくれる刺激的な書!:分断されるアメリカ 昨年、トランプ大統領が就任する前後で文庫版で復刊され(最初の翻訳出版は2004年)、話題となった本書。著者は、『 …

嘘つきアーニャの真っ赤な真実-米原万里-idobon.com

嘘つきアーニャの真っ赤な真実:知らなかった東欧・中央の共産主義世界が読み取れる

少女時代をプラハのソビエト学校で過ごした米原万里さんの回想録 共産党員の娘としてうまれた米原万里さんは、父の仕事の関係で9歳~14歳プラハで過ごし、現地学校ではなくソビエト学校に通われます。この本は、 …

戦う北欧:抗戦か・中立か・抵抗か・服従か-武田龍夫-idobon.com

戦う北欧 抗戦か・中立か・抵抗か・服従か:類書なき良書

軍事力なしには平和も中立も守りえなかった悲壮の歴史 絶版して久しい本書ですが、読んであまりにも面白かったので、レビューさせていただきます!(アマゾンで簡単に中古本を購入できますしね♫ 良い時代です) …