American Grand Strategy and East Asian Security in the Twenty-First Century
論旨が非常にわかりやすく、研究のお手本にもなる優れた本
本書の主題は、題名にもあるとおり、東アジアの安全保障と米国の戦略です。しかし、本書は、米国において主流である、中国に対抗して軍事プレゼンスや同盟関係の強化を唱える主張には与しません。むしろ、米国は東アジアにおいて、軍事面では紛争抑止などの最小限の役割にとどめ、むしろ経済、外交関係の取り組みに注力すべきという、非主流派に属する主張を展開します。
このような主張の土台にあるのは、東アジアの国々は中国を脅威に感じておらず、米国とも中国ともうまくやっていきたいと考えている、という認識です。本書はこの認識を様々なデータをもって立証していきます。国防費の推移、導入している防衛装備品の種類、首脳会談の傾向などを詳細に分析して、東アジアの国々がもし本当に中国を脅威と感じているのだったら、こういう傾向がみられるはずなのに実はそうはなっていないという、仮説検証のお手本のような形で議論を進めていきます。
このようなデータをもとに、本書の結論として、東アジアの国々は中国の封じ込めなどの対中強硬路線に同調する可能性は低く、米国がそのような政策を追求するのは東アジアで孤立を招くだけだとしています。したがって、米国は対中封じ込め等ではなく、中国や東アジアの国々に対し外交的・経済的な取り組みを強化する方が米国の利益にかなっている、と主張します。
本書の結論にたとえ同意しなくても、根拠となるデータがしっかり示されているため、どこどこの根拠のこのような解釈に同意できないなど、東アジアの安全保障に関する自らの見方を確認できる格好の材料となるでしょう。
本書の分析手法はとても分かりやすく、また、自分で論文を書く際にも、ぜひお手本にしたいと思わされます。そういう意味で、単に読んで知識を得る以上のものが得られるお得な1冊だと思います。
American Grand Strategy and East Asian Security in the Twenty-First Century
David C. Kang
夫
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