The China Challenge: Shaping the Choices of a Rising Power
学問と実践に裏打ちされた冷静な中国論
ここ10年くらい、中国に関する本は巷にあふれかえっているように思います。本屋の政治・経済のセクションを見れば、必ずと言っていいほど中国に関する本が所狭しと並んでいます。もちろん、私はそれらの本の全てを読んでいるわけではありません。しかし、中国の脅威をやたらに煽っている本や、逆にひたすら日中友好を唱える本など、著者の個人的な考えを一方的に押し付けられるような本がやたらと目につき、ちょっと辟易することがあります(-_-;)
そのような中、本書の主張はかなり中道的で、中国に対して過度な期待もしなければ、やたらに脅威をあおることもしません。著者のトーマス・クリステンセン(Thomas Christensen)は、生粋の政治学者であるとともに、ブッシュ政権で国務省次官補代理として東アジア情勢を担当したこともある、学問と実務において経験豊富な専門家です。あくまで学問と実務経験をもとに、冷静な立場で議論を進めていきます。
私なりに本書の主な内容をまとめると、以下のような感じでしょうか。
まず筆者は、中国が強大になっていくことよりも、むしろ不安定で内向きになってしまうことの方が世界にとって危険であると主張します。地球温暖化、国際テロ、シリア内戦、北朝鮮及びイランの核問題など、現在の世界における懸念事項は、もはや中国の協力なしには解決するのが困難となっています。そのような中、仮に中国が政治不安や経済不安を抱え、国内問題だけに没頭するようになっては、そのようなグローバルな問題の解決に向けて協力するのが非常に難しくなる、との現状認識を示しています。
このような現状認識を踏まえ、筆者は主に2つの主張をしています。
1つ目は、中国の経済や政治的安定を阻害するような政策(例えば「封じ込め」政策)については、米国をはじめとする国際社会にとってもプラスの効果はもたらさないということ。
2つ目は、むしろ国際社会がやらなければならないことは、中国の成長を助けつつ、いかに中国がグローバルな問題の解決に協力的になるように仕向けるかであるということ。そのために、中国の政治的懸念に配慮しつつ、合理的な着地点を見つける重要性について強調しています。
本書を読み終えた率直な感想は、現実の国際政治は簡単ではない、という当たり前のことを改めて認識させられた、ということです。中国の脅威もしくは中国との友好をひたすら主張することは簡単ですが、本書を読むと、そのような一方的な主張だけでは立ち行かないことを痛感させられます。それと同時に、難しいながらも、中国と建設的な関係を築いていくことは決して不可能ではない、という希望も見いだせます。
成長を続ける中国をめぐり、日本を含め国際社会はいかなる方策をとっていくか。この難しい問題を考える際に、本書の冷静な視点は素晴らしい材料になると思います。残念ながら邦訳はされていませんが、国際関係に興味があるなら英語で少し苦労してでも読む価値のある本だと思います。
The China Challenge: Shaping the Choices of a Rising Power
Thomas J. Christensen
夫
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