イスラム教の世界だけどすごく聖書的なストーリーだと思った
PR会社で働いていたころ、ある会社の社長のPRをする機会がありました。雑誌やオンラインメディアのインタビュー枠を取ってくる仕事だったのですが、その時一つ決まったのが雑誌PRESIDENTの「経営者の一冊」というコラム。経営者たちがおすすめする本を紹介するコラムです。
その時その社長がピックアップした中の一冊が、この本。結局コラムでは別の本を紹介することになったのですが、一応社長が挙げた本を全部読んでおこうと思って買っておいたんですよね。でも結局その時は最初のさわりしか読まず。先日実家に帰ったときに本棚で見つけたので、何気なく手に取って再び読み始めました。
そしたら、あの会社の社長がおすすめするだけあって、いい本!!でした。
もっと早くに読んでおけばよかった!
ストーリーはアフガニスタンのカブール(カーブルとも言う?)から始まります。裕福な家に生まれついたアミールと、その家の召使の子供として生まれたハッサン。二人とも母親をなくし、同じ乳母の乳を飲み、幼馴染として育ちます。
切っても切り離せないほど仲良しな二人でしたが、アミールはハッサンに対してどこか見下した態度を取ることがありました。ハッサンは召使だし、ハザラ人という少数民族で、アフガニスタンでは人種差別の対象だったからです。
そして12歳の凧上げ合戦の日に、アミールはハッサンのことを最悪な形で裏切ってしまいます。アミールはその先何十年も、その罪悪感に悩まされながら生きていくことになります。
読みながらハッサンの姿がキリストと重なった
この本の舞台はアフガニスタンで、イスラム教の特色が色濃く描写されています。ですが、私はこの本を読みながら非常に聖書的なストーリーだなと思いました。
ハッサンはアミールのために犠牲になります。アミールはハッサンがひどい仕打ちをしているのを目撃しておいて、知らないふりをしてしまいます。アミールはそのときのハッサンの目を「屠られる前の羊の目に似ている」と描写しています。
これは、聖書のイザヤ書53章7節にあるキリストの描写を思わせます。
彼は痛めつけられた。彼は苦しんだが、口を開かない。ほふり場に引かれていく羊のように、毛を刈る者の前で黙っている雌羊のように、彼は口を開かない。
その事件の後、アミールは自分を守るために「ある嘘」をついてハッサンを追い出します。その時のシーンは、自分の罪を告白してしまえば楽になるのに、プライドが邪魔して決して口を開けない葛藤が痛ましく描かれています。そして嘘に気づいているにも関わらず、ハッサンはまたもやアミールを守ろうとします。
「こんな苦しみを引き起こすことが平気でできる人間に、ぼくはいつ、どうやってなったのだろう?」―p168(日本語版)
「ぼくなんか、この献身的な犠牲にふさわしくない人間なんだ。」―p169(日本語版)
このシーンは、私たちがキリストのはらった犠牲を受ける価値のない罪深い存在なのであるということが思い起こされます。
この後何年経っても自分を責め続け、不眠症を患うアミール。その後ある人からもらった一本の電話がきっかけで、再び償いをする機会が訪れます。
物語の後半では、もう罪が許されているのに、過去の自分を責め続ける信者の姿と重なります。アミールの罪の意識が痛々しくて心に突き刺さる思いでした。
アフガニスタンやイスラム教の文化的背景についても学べる
本書を通して、アフガニスタンの歴史や文化についても知る機会となりました。アフガニスタンは今まで何となく「危ないところ」というイメージしかありませんでしたが、ソ連アフガン戦争の前はとても平和で、西洋の影響を受けているところだったこととか、タリバンのことなども改めて調べてみたりもして、勉強になりました。
ハザラ人のこと、アメリカにあるアフガニスタン人コミュニティのことなども初めて知って、視野が広がりました。
ちなみに以前買ったのは上巻だけで、下巻があったことに気が付きませんでした^^;
次が気になってすぐに読みたかったので、キンドル版がある英語版を購入。後半からは英語で読みました(英語ができるとこういう時便利w)。英語版ではペルシャ語がところどころに出てきて読みにくく、たまに何を言ってるのかわかんないところも(笑)。日本語版の方が、日本語の意味の横にルビがふってある形だったので、比較的分かりやすいと思います。
とにかく、久々に読んだ後に何時間も考えさせられてしまう小説でした。世界中から大反響を受けただけある物語です。
映画版もAmazon Primeで見れます。本を読んだ後だと何だか物足りなかったですが、アフガニスタンの街並みが見れたり、凧上げってこんなにかっこよかったっけ?と思えて興味深かったです。
【英語版】
The Kite Runner (英語)
Khaled Hosseini
【日本語版】
君のためなら千回でも(上巻) (ハヤカワepi文庫)
カーレド・ホッセイニ (著), 佐藤耕士 (翻訳)
君のためなら千回でも(上巻) (ハヤカワepi文庫)
カーレド・ホッセイニ (著), 佐藤耕士 (翻訳)
妻
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