社会・政治 軍事

大本営参謀の情報戦記―情報なき国家の悲劇:インテリジェンスから見る太平洋戦争の反省

投稿日:2018年7月27日

大本営参謀の情報戦記 情報なき国家の悲劇-堀 栄三-idobon.com

インテリジェンスについて耳の痛いアドバイスが満載

本書は、太平洋戦争中、陸軍のインテリジェンス部門に勤務していた筆者が、インテリジェンスの観点から太平洋戦争を振り返る本です。平易な口調で語られる、読みやすい歴史回想録として楽しむことができるうえ、日本人が今後、インテリジェンスに向き合う際の教訓がちりばめられていて、読んでいて得する気分になれる本です(笑)

歴史回想録としては、著者は主に、

  • 開戦から2年がたつまで、陸軍に独立したインテリジェンス担当の部署がなく、情報部門が軽視されていたこと、
  • 海軍は大艦巨砲主義、陸軍は歩兵主力主義という前近代的な思想にとらわれ、制空権という概念を軽視したこと

など、日本軍の組織的、思想的欠陥などを挙げ、太平洋戦争の敗因を考察しています。戦前の陸軍で長く勤務し、戦後の自衛隊でもキャリアを積んだ著者ならではの、専門的な軍事知識を駆使しつつ、一般の読者にもわかりやすい、読ませる文章となっているのは圧巻です。

また、筆者は、戦争という文脈から離れて、インテリジェンス一般への向き合い方についても、鋭い指摘を次々と述べています。いくつか例を挙げますと、

情報はまず疑ってかからねば駄目である。疑えばそれなりに真偽を見分ける篩(ふるい)を使うようになる(P53)

 

情報の仕事は職人のそれのようなものである。教えてくれと言っても教えてもらえないし、専門の教科書があるわけでもない。ただ自分がこれを天与の仕事と思って取り組んだときに初めて、経験者の体験が耳に入り、それを咀嚼し仕事に活かし、上司の片言隻句から自分で自分を育てていく以外にない。(P165)

 

情報の任に当たる者は、「職人の勘」が働くだけの平素から広範な知識を、軍事だけでなく、思想、政治、宗教、哲学、経済、科学など各方面にわたって、自分の頭のコンピューターに入力しておかなければいけなかった(P260)

私自身、仕事で情報分析を担っている立場ですので、本書を読んで大いに感化され、特に、最後に引用したアドバイスである、平素から様々な知識をインプットしておく重要性については、読むたびに刺激されています。もっと読書しなきゃ!(`・ω・´)

元軍人による太平洋戦争の回顧録は数多くありますが、本書はその中でも読みやすく、現代的な教訓も多く引き出せる点でおススメです!


 

大本営参謀の情報戦記 情報なき国家の悲劇-堀 栄三-idobon.com

大本営参謀の情報戦記 情報なき国家の悲劇
堀 栄三

Amazonで見る 楽天で見る
The following two tabs change content below.

国際関係、政治、哲学、古典に関する本が大好物。読書は絶対紙派(電子はちょっと苦手なのです…)。アコースティックギターが趣味で夜な夜な練習にいそしんでいる。ツンツンヘアがトレードマークで、ヘアカットをするときのお決まりの注文は「横と後ろはバリカンでトップは短く」。
▼ブログランキング参加中。クリック応援お願いします♪
にほんブログ村 本ブログへ にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ にほんブログ村 本ブログ おすすめ本へ

-社会・政治, 軍事
-


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

関連記事

米中もし戦わば-入門 論文の書き方-ピーター ナヴァロ (著),‎ 赤根 洋子 (翻訳)-idobon.com

米中もし戦わば:米中関係の知識整理にうってつけ

一見タイトルは激しいが内容はまとも 何とも刺激的なタイトルですね(^-^; しかも、著者がトランプ大統領の政策顧問であることから、内容もかなり刺激的な内容になっている。。。かと思いきや、本書で述べられ …

実践・私の中国分析―「毛沢東」と「核」で読み解く国家戦略-平松茂雄-idobon.com

実践・私の中国分析―「毛沢東」と「核」で読み解く国家戦略:中国の政治・軍 事に興味のある方は必読の研究論

読むと勉強したい気持ちが湧いてくる 著者である平松茂雄氏は、多くの中国の軍事関係の専門書を出されていますが、本書は一般向けに書かれており、専門知識がなくてもストレスなく読むことができます。 本書は、著 …

剣の刃-シャルル ド・ゴール-idobon.com

剣の刃:これからの日本に必要な本

政治と軍事の関係を考える上でとても参考になる 「剣の刃(つるぎのやいば)」、かっこいいタイトルですね。何を隠そう、私が本書を購入したきっかけは、もちろん優れた本であると聞いたからというのもありますが、 …

Destined for War: Can America and China Escape Thucydides’s Trap? Graham Allison

Destined for War:米中関係を大胆に予測する刺激的な書

米中関係を語るうえで把握しておくべき1冊 本書の邦訳タイトルである『米中戦争前夜』、見ただけで興味をそそられる刺激的なタイトルで、思わず財布のひもがゆるんでしまいますね!(私だけ?) タイトルだけでな …

Weapons Don't Make War: Policy, Strategy, and Military Technology-Colin S. Gray-idobon.com

Weapons Don’t Make War: Policy, Strategy, & Military Technology:多少古いが読む価値のある本

  兵器が戦争を起こす、という幻想を吹っ飛ばしてくれる 「兵器は戦争を起こさない」という、通説に反しているようなタイトルがまず私好みです(笑) 内容は、副題にもあるとおり、政策(Policy)、戦略( …