読みにくいが最後まで読む価値がある作品
ノーサンガー・アベイ、高慢と偏見と続けてジェーン・オースティンの本を読んできましたが、「エマ」は上記2作に比べて読みやすさで言うと難易度が高い作品だと感じました。岩波文庫では上と下に分かれていますが、下の半分以降にならないと、主人公に好感度のコの字も感じられないというのが大きい。だからと言って、読むに値しない作品という訳ではありません。主人公とその周りを取り囲む退屈な人々のお喋りに辛抱して、最後のクライマックスまで付き合えるか、ということです。また、読みにくい作品だからこそ、読み終わってから考え、意味を考えることが出来るとも言えます。
オースティンはエマについて「わたし以外には誰も好きにならないような女」と言っています。確かにエマは傲慢で見栄っ張り、自分を過大評価しているイヤな女です。エマはお喋りで高慢ちきなミス・エルトンを嫌っていますが、皮肉なことに、読者からしてみればエマはミス・エルトンと大して変わらないのです。そんなエマにようやく好感を持ち始めることが出来るのは、後半の、エマがジェーンの健康を助けようと手を尽くすも、断られ続けるシーンからです。ジェーンはエマからは親切を受け入れたくないんだと、エマ自身が認めます。「エマは悲しかった」(下 p.224)とあります。自分の過ちを認め、それに対する他人の反応を認知することで自分の行いには必然的な結果があるのだと、エマはやっと気がつきます。この不愉快な経験こそ、結果的にエマが成長するきっかけになる良い経験となります。
その他にも、自信過剰だったエマには、自分の見解が物凄く間違っていたことに気付く様な出来事がいくつか立て続けに起こります。そして、エマはようやく自身の心を理解し、心の中は自分が思っていたより悪かったことに気付きます。 「心のほかの部分はへどが出るほど嫌だった」(下 p.257)と、エマは言っています。
「エマ」は金銭的、社会的境遇、そして美貌に恵まれた女性が過ちを通して成長する物語です。読み終えてみて、彼女の傲慢な姿は、自分自身に似ているんだ、だから読むのが苦痛だったんだ、と気付かされます。幸いにも、エマには、間違った言動をしても彼女を突き放さず、常に忍耐強く正し、見守り続けているミスター・ナイトリーという存在がいます。世の中の全ての傲慢で無知な女性に、ミスター・ナイトリー的存在が身近に居て、正し続けてくれることを願います。私も、そんな高貴な人物に突き放されることがないよう、常に批判にはオープンでありたいと思わされました。
エマ〈上〉 (岩波文庫)
ジェーン・オースティン(作)、工藤政司(訳)
エマ〈下〉 (岩波文庫)
ジェーン・オースティン(作)、工藤政司(訳)
妻の姉
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