外交・国際関係 社会・政治

Destined for War:米中関係を大胆に予測する刺激的な書

投稿日:2020年2月1日

Destined for War: Can America and China Escape Thucydides’s Trap? Graham Allison

米中関係を語るうえで把握しておくべき1冊

本書の邦訳タイトルである『米中戦争前夜』、見ただけで興味をそそられる刺激的なタイトルで、思わず財布のひもがゆるんでしまいますね!(私だけ?)

タイトルだけでなく、内容もしっかり刺激的な本書。簡単にまとめると以下のような感じでしょうか。

  • 古代ギリシャのトゥキディデス(Thucydides)がその著『戦史』で述べたように、アテネとスパルタが戦った「ペロポネソス戦争」は、台頭するパワー(アテネ)が、当時支配的であったパワー(スパルタ)の地位を脅かしたことによる緊張が主たる原因
  • 歴史上、ペロポネソス戦争と同じく、台頭するパワーと支配的なパワーとの間では、大部分が戦争に至っている。例えば、20世紀初頭に台頭した日本は極東で支配的であったロシアと日露戦争(1905年)を、同じような時期に台頭したドイツは世界的な帝国であったイギリスと第1次世界大戦(1914年)を戦う結果になった。
  • 現在、米中間でも同じように台頭する中国と支配的な米国の対立という構図になっており、歴史に鑑みれば、米中間でもいずれ戦争が起きる可能性がある。それを避けるために、あらゆる手を尽くす必要がある。

著者であるグレアム・アリソン教授は、昔、キューバ危機を分析した『決定の本質』という古典的著作を書いたことで有名な教授です。学術的に緻密な議論を展開しつつ、上記以外にも様々な歴史的事例を参照しつつ、言わんとすることをすっきり単純明快に述べるところはさすがとしか言えません。

本書の出版(2017年)後、様々な専門家から賛否両論の反応が寄せられていることからも、本書の影響力の高さが伺えます。そういう意味で、これからの米中関係を論じるうえで、賛否はともかくとして、必読の1冊と言えるでしょう。


 

Destined for War: Can America and China Escape Thucydides’s Trap? Graham Allison

Destined for War: Can America and China Escape Thucydides’s Trap?
Graham Allison

Amazonで見る 楽天で見る
The following two tabs change content below.

国際関係、政治、哲学、古典に関する本が大好物。読書は絶対紙派(電子はちょっと苦手なのです…)。アコースティックギターが趣味で夜な夜な練習にいそしんでいる。ツンツンヘアがトレードマークで、ヘアカットをするときのお決まりの注文は「横と後ろはバリカンでトップは短く」。
▼ブログランキング参加中。クリック応援お願いします♪
にほんブログ村 本ブログへ にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ にほんブログ村 本ブログ おすすめ本へ

-外交・国際関係, 社会・政治
-


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

関連記事

核兵器の仕組み:核兵器や原子力発電の仕組みが面白いほどわかる

文系でも読める核兵器の構造に関する入門書 白状します。私、極めて典型的な文系人間です。 大学は考古学を勉強し、大学院では国際関係学を専攻したので、大学受験以降、数学や理科などの科目とは無縁な生活を送っ …

American Grand Strategy and East Asian Security in the Twenty-First Century-David C. Kang-idobon.com

American Grand Strategy and East Asian Security in the Twenty-First Century:反主流的な東アジア安全保障論

American Grand Strategy and East Asian Security in the Twenty-First Century 論旨が非常にわかりやすく、研究のお手本にもなる優 …

The Hundred-Year Marathon: China's Secret Strategy to Replace America As the Global Superpower Michael Pillsbury-idobon.com

The Hundred-Year Marathon(邦題:China 2049): 日本にとって本当の脅威は何かを教えてくれる本

北朝鮮よりも恐ろしい中国 中国という国は本当に恐ろしい…というのが、率直な読後感でした。いえ、別に中国の人が個人的に恐ろしいというわけではないのですが(^^;)、国家としてのビジョンの大きさ、そして、 …

安保論争-細谷 雄一-idobon.com

安保論争:どのように平和を保っていくべきか考えさせられる一冊

安全保障を冷静に考えるためにおススメしたい本 本当に中身の詰まった、勉強になる本だなあというのが、読み終わったときの率直な感想です。本書は、2015年に安保関連法が成立した約1年後に出版された本ですが …

On China-Henry Kissinger-idobon.com

On China(邦訳タイトル:中国):重鎮キッシンジャー氏による長大な中国論

不満な点もあるが、面白い 本書の著者は言わずと知れた米国政治界の重鎮、ヘンリー・キッシンジャー氏です。キッシンジャー氏は大統領補佐官や国務長官を歴任し、1970年代の米中国交正常化にも当事者として深く …