変わったスタイルの小説
村上春樹の小説といえば、ちょっと孤独でパッとしない主人公が、漏れなく不思議な美女とセックスして、その美女がいなくなり…的な展開のものが多いですが、「アフターダーク」はその型にはまらない変わったスタイルの小説です。
まず、語り手が謎。
「われわれ」とよばれる、人間ともオバケともいわぬ語り手が、一夜のうちに登場人物たちにおこる出来事を俯瞰している、というスタイルです。
これ、騎士団長殺しを読んだあとだったので思ったのですが、語り手は騎士団長殺しに出てくるような「イデア」だったんじゃないかな、というのが私の勘です。だってイデアは時空を超えるけど「眺めているだけしかできない」とあるから。
騎士団長殺しは、アフターダークよりも10年以上も後に出た作品なので、元々「イデア」という名前があったわけではないと思いますが。
こんな風に他の小説との共通点を探しながら読めるのも、春樹作品の面白いところなのかもしれません。あるいは。(笑)
あらすじは、浅井マリという女の子が深夜にデニーズで読書をしていたところ、高橋という男に話しかけられます。それに並行して、マリの姉エリが眠っている間におかしな世界に引き込まれていきます。それから、デニーズ近くのラブホで中国人の娼婦を暴行して逃げた犯人のストーリーライン。と3つのスジに一晩かけて起こることが、「われわれ」によって描写されていきます。
相変わらず、引き込まれて一日で読んでしまいました!
ここからはネタバレです
読みながら、高橋というヤツはいいヤツで、高橋とマリは恋仲になるのかと期待していましたが、色々な書評を見ていると高橋は本当は信頼のおけるヤツではないのかもしれないと思わされました。
高橋が映画のラストについて嘘をついた、なんてことは書評を読んでみないとわからないですよね…。
だから、マリはそれに気付いていて、中国に留学する前に高橋と会うのは断り、帰国後のデートのお誘いもあいまいな答えをしたのかな、と。
以前ラブホに行った相手もマリの姉のエリではないと言い張りますが、もしかしたら嘘をついているのかもしれない、とありました。
でも、真相は小説からは分からないので、そのあたりも読者の憶測を促してしまうところが、春樹小説の面白いところですよね。
真夜中独特の、何かが起こりそうな、不思議な「あの感じ」を上手く表現した小説だと思います。
アフターダーク
村上 春樹
妻
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