ミステリー 外国文学 小説

その女アレックス:毎章ごとにこんなにがらっと展開の変わる小説は初めて

投稿日:2018年9月22日

その女アレックス-ピエール・ルメートル (著)、橘明美 (翻訳)-idobon.com

完全に普通じゃないミステリー小説

表紙の絵と裏表紙のあらすじからして、女性の誘拐の話かなと思って読み始めました。アレックスという女性は男に誘拐され、想像を絶する残忍な状態で監禁されます。普通のミステリー小説なら、ここで犯人が見つかって、女性が救出されて終わりです。しかし、この小説では誘拐は序章に過ぎず、信じられないような展開を遂げるのです・・・。

ストーリーをあまり詳細に説明するとネタバレになるので省きますが、三章構成の本書では、「アレックス」に対する目線が章ごとにガラリと変わってしまいます。「誘拐されて監禁される哀れな女」だったのが、章を追うごとに新たな秘密が暴かれていき、読み手をハラハラドキドキさせるのです。

本書はピエール・ルメートルの「カミーユ・ヴェルーヴェン警部シリーズ」という三部作の第二部作で、カミーユという身長145センチの警部を主人公に展開するストーリーです。

カミーユの部下に金持ちで貴公子のようなルイ、そしてしみったれたケチのアルマンが出てきます。それぞれの特徴がストーリーの中で面白く描写されていて、人物のキャラがありありと浮かぶようです。ルイはいつもブランドものをまとっていて、身のこなしが優雅でしなやか。アルマンは誰かと外食に行くと決まってお金を払わないし、捜査中に店の商品や食べ物をネコババする。それにカミーユの『145センチのおじさん』目線が加わって、残虐なシーンもあるミステリー小説なのに、くすくす笑ってしまうところもありました。

それからフランス人独特の皮肉っぽい表現も多く、それも面白かったです。一番ウケたのが、捜査の協力者の犬があまりにも醜いのを「犬は神がひどくお疲れのときに造りたもうた生き物に違いない」と表現していたこと。思わずしばらく笑ってしまいました。こういう皮肉ったらしいところは日本人の作家にはあまり見られないので、新鮮でした。

ストーリーはあまり話せないにせよ、まばたきするのも忘れて一気に読みました(ドライアイ!!)。第二章はグロテスクな描写も多いですが、第三章でまた新たな秘密が明らかにされ、あっと驚かされます。「カミーユ・ヴェルーヴェン警部シリーズ」の前作は読んでいないですが、「アレックス」からでも十分楽しめると思います。


 

その女アレックス-ピエール・ルメートル (著)、橘明美 (翻訳)-idobon.com

その女アレックス
ピエール・ルメートル (著)、橘明美 (翻訳)

Amazonで見る 楽天で見る
The following two tabs change content below.

体や栄養に関するマニアックな本、経済・投資関連の本、社会学系の本が好き。モノを増やしたくないので本はできる限りデジタルにしたいと思っている。ミステリー&サスペンス系の小説が好きだが、はまり込むと家事や仕事をおろそかにするのでたまにの楽しみにしている。
▼ブログランキング参加中。クリック応援お願いします♪
にほんブログ村 本ブログへ にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ にほんブログ村 本ブログ おすすめ本へ

-ミステリー, 外国文学, 小説
-


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

関連記事

ノーサンガー・アベイ-ジェーン・オースティン-idobon.com

ノーサンガー・アベイ:いわゆる「普通の女の子」のプリンセスストーリーに親近感を覚える

現実的なヒロイン像であるキャサリンと、良い教師ヘンリー 19世紀の作家、ジェーン・オースティンの初期の作品であるこの物語は、主人公、キャサリン・モーランドがどれだけ典型的なヒロイン像から外れているかの …

Origin-Dan Brown-idobon.com

Origin: 久々にヒットのダン・ブラウン小説

最後の最後まで目が離せない 本作はダン・ブラウン氏によるラングドン教授シリーズの最新作で、同シリーズの中では個人的にかなりヒットしました。前作の「インフェルノ」は個人的にはあまり面白く感じず(話が冗長 …

1Q84-英語版-村上春樹-idobon.com

1Q84:今まで読んだ春樹本の中で一番面白かった

私の2015年2月はほとんどこの本に吸い尽くされた 村上春樹のとんでもなく長い小説ということで、手に取ることを躊躇していた本書。 アメリカにいたときに一緒に2週間もロードトリップをした友人が、旅行期間 …

蠅の王:真のリーダーとは?人間の本質とは?

無人島に残された少年の葛藤から学ぶ もし、飛行機が墜落して、無人島に漂流したら、どうする・・・? 小説の登場人物達の状況は、まさにアメリカのドラマ、「LOST」そのもの。世界大戦の火の手を逃れて疎開先 …

二年間のバカンス-十五少年漂流記 ジュール・ヴェルヌ

二年間のバカンス 十五少年漂流記:小中学生の男の子に読んでもらいたい

明るく、勇気を持つことを教えられ、力付けられる本 「海底二万里」などで有名な19世紀のフランスの小説家、ジュール・ヴェルヌの小説、「二年間のバカンス」を読みました。 15人の少年達が無人島に漂流してし …