不満な点もあるが、面白い
本書の著者は言わずと知れた米国政治界の重鎮、ヘンリー・キッシンジャー氏です。キッシンジャー氏は大統領補佐官や国務長官を歴任し、1970年代の米中国交正常化にも当事者として深くかかわってきました。政治界から引退した後も多くの本を出版し、米国言論界をけん引しています。
本書はそんなキッシンジャー氏による中国論です。19世紀の中国とヨーロッパ諸国との接触の時代から始まり、本書執筆当時の2011年くらいまでをカバーしている、一種の通史のような作りになっています。
しかし、分量的には19世紀の話はやや薄く、著者本人も携わった1970年代以降の記述の方にだいぶ分量を割いています。中華民国時代の話など、ものの数ページで片付けられてしまっています(笑) したがって、通史として読むにはややアンバランスさが目立つ気がします。
むしろ、本書の売りは、やはりキッシンジャー本人が絡んだ1970年代の交渉の記述と、今後の米中関係論の部分ではないでしょうか。米中国交正常化に関する本を網羅的に読んだわけではないですが、1970年代の米中交渉にかかる記述は、類書に比べ、当事者ならではのエピソードなども交え、生き生きと描かれています。また、長く米国の外交にたずさわった実務者として、彼の今後の米中関係の見通しについての意見は拝聴に値するのではないかと思います。
しかし、不満な点もあります。まず、本書の分量の多さです。私の読んだ原書のペーパーバック版で550ページ、日本語訳で600ページ以上のなります。読むのにめっちゃ時間がかかりました(;´Д`) 特に、日本語訳は上下2分冊なので、お値段もなかなか張ります(;´Д`)また、通史としてバランスを欠いている点は先ほど書いたとおりです。中国の通史を手軽に知りたい、という方には、池上彰氏の「そうだったのか!中国」などの本をおススメします。
なお、これは私個人の主観で、本書の質には全く関係ないのですが、彼の今後の米中関係論については、どうも賛成しかねます。
彼は米中お互いに刺激せず、共通の利益を求めて仲良くやる道を探るべきだ、という趣旨のことを主張しています。もちろん、そうした方向で努力することも大事だと思いますが、以前レビューしたマイケル・ピルズベリー氏の”The Hundred-Year Marathon”でも主張しているとおり、中国がそうした米中融和関係ではなく、世界の覇権を求めて着々と準備している、という可能性についても同時に備える必要があるのではないかと思います。米中融和も大事であることは否定しませんが、本書のようにそれを強調しすぎると、万が一に向けて備える努力がおろそかになってしまうのではないか、という懸念を持っています。
何やら偉そうに真面目くさったコメントをしてしまいましたが(/ω\)、私の主観は置いておくにしても、本書は特に第2次大戦後の米中関係や、キッシンジャー氏の意見に興味のある方には買いの本だと思います。
On China
Henry Kissinger
夫
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