読みにくいわりに得られるものは少ない
本書は言わずと知れたドイツの大哲学者、イマヌエル・カントによって書かれた、平和論の古典ともいわれる本です。カントと言えば、『純粋理性批判』などの純哲学の著作が大半を占める中で、本書はカントにしては珍しい政治哲学の著作となっています。
本書は岩波文庫版でも100ページちょっとですし、軽い気持ちで読み始めてしまったのですが。。。結論から申し上げますと、ひたすら読みにくく、そして読了後に何も残りませんでした(;´Д`) と、ここで終わってしまうとレビューになりませんので、何とか読み返しつつ、中身を少しレビューしたいと思います。
本書を読んでいて思うことは、いいこと言っているけど、現実的ではなさそうという箇所がいっぱいあることです。
例えば、「戦争の原因となる常備軍を廃止しましょう」「自由な諸国家による平和連合をつくりましょう」という趣旨のことが書かれていますが、では一体それらは具体的に誰(どの国)が主導し、どうやって達成するのか。そもそも平和連合なるものはどう機能するのか。などの具体的な議論は示されないまま、理想像だけ示されてハイさようなら、という感が否めません。
軍隊をすべてなくせば平和になる、各国が一つの連合になれば平和になる、などの理想像を述べる本は数多くある中で、わざわざ本書を読む必要性はあまり感じません。
一方、専門的には、彼の主張にも鋭いところはあると思います。例えば、全ての国が共和国家(民主主義国家)になれば、民衆の反対により戦争を行うことはもはや不可能になる旨の主張をしています。これは、現在の国際関係論の理論の一つである、民主主義による平和論(Democratic Peace Theory)のきっかけとなった主張であり、現在の国際関係論においても一定の影響力を保持しているのは確かだと思います。
また、人間の自然状態は平和ではなく戦争状態であり、それゆえ平和とは作り出されるもの。すなわち何らかの措置によって保障されなければならない、との主張があります。これも、現代日本の平和論にはあまり見られない卓見だと思います。
それにしても、読みにくい!岩波文庫版のほかに、Hackett社から出ている英語版も読みましたが、英語でもわかりにくかったです(・´з`・) 原文のドイツ語を読む力はありませんが、おそらく原文からして難解な文章なのではないかと思います。
読むのに苦労する割には、得られるものは少ない、というのが率直な感想です。一般読者向けの読み物というよりは、カント哲学や国際関係論などを専門とする方向けの専門書、という位置づけが妥当かな思います。
永遠平和のために
イマヌエル・カント
夫
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