読むと思わず胸が熱くなる
本書は、ビルマ(現在のミャンマー)を舞台に、第2次世界大戦中に派遣された日本の兵士の方々の、戦争中の様子から戦争後に帰国するまでの様子を描いたフィクションです。この物語は、昭和21年ごろに連載されていたものであり、まさに戦争の直後に書かれたものです。
戦争が終わり、ビルマに派兵されていた兵士たちが日本に帰ろうとする中、なぜか一人だけ日本に帰ろうとしない兵士がいます。その理由、彼の想いとは。。。
ネタバレはいたしませんので、続きはぜひ本編で!(笑)
1956年に映画化もされています。
戦争をめぐる議論
先の大戦(大東亜戦争)については、未だに多くの人がその評価をめぐって議論を戦わせています。ある人は、あれはアジアの国に対する侵略戦争であり、その戦争に参加した兵隊も、無実の人を殺害した罪を負っている、と言うかもしれません。一方で、あの戦争は、米国や欧州諸国に対する自衛戦争であり、その戦争に参加した兵隊は、祖国を守った勇敢な兵士たちである、と言う人もいるでしょう。あの戦争の評価は、歴史上の話だけではなく、これからの東アジア政治を考えるうえでも重要なものであり、学者や政治家の方だけではなく、私たち一人一人が考えなければいけない問題なのかもしれません。
筆者は、先の戦争を肯定しているわけではありません。しかし筆者は同時に、その戦争に連れ出されて死んでいった兵士の方々に深い悲しみを感じ、その鎮魂を願っています。それは、作中のある登場人物のこのセリフに集約されている気がします。
まちがった戦争とはいえ、それに引き出されて死んだ若い人たちに何の罪がありましょう…(文庫版 186頁)
その想いを、筆者は、巻末の『ビルマの竪琴ができるまで』でこう語っています。
義務を守って命をおとした人たちのせめてもの鎮魂を願うことが、逆コース(注:戦後の日本の民主化の流れに逆行すること)であるなどといわれても、私は承服することはできません。逆コースでけっこうです。あの戦争自体の原因の解明やその責任の糾弾と、これとでは、全く別なことです(文庫版 206頁)
先の大戦について論じた本は、たいした数ではないですが、私もいろいろと読んできました。その中には、もちろん冷静な議論を展開しているものもありますが、戦争の評価や責任などについて、異なる立場の主張に対して攻撃的で、政治色の強い内容の本が多いような気がします。もちろん、そういう本の価値を否定するわけではありません。
しかし、本書は、そうした政治的な論争において忘れられがちな、人が人に対して持つ愛や、悲惨な運命を前に生き抜こうとする人のひたむきな姿を描くことにより、読む人に、人として大切な、暖かい何かを思い起こさせてくれるような気がします。
戦争の評価に対する立場がどうあれ、先の戦争に興味のある全ての方に、特に、私のように「戦争を知らない世代」の人たちに、心からおススメしたい一冊です。
ビルマの竪琴(新潮文庫)
竹山道雄
夫
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