小説 文学・評論

ビルマの竪琴:人としての大切なものは何かを考えさせてくれる小説

投稿日:2018年4月27日

ビルマの竪琴-竹山道雄-idobon.com

読むと思わず胸が熱くなる

本書は、ビルマ(現在のミャンマー)を舞台に、第2次世界大戦中に派遣された日本の兵士の方々の、戦争中の様子から戦争後に帰国するまでの様子を描いたフィクションです。この物語は、昭和21年ごろに連載されていたものであり、まさに戦争の直後に書かれたものです。

戦争が終わり、ビルマに派兵されていた兵士たちが日本に帰ろうとする中、なぜか一人だけ日本に帰ろうとしない兵士がいます。その理由、彼の想いとは。。。

ネタバレはいたしませんので、続きはぜひ本編で!(笑)

1956年に映画化もされています。

戦争をめぐる議論

先の大戦(大東亜戦争)については、未だに多くの人がその評価をめぐって議論を戦わせています。ある人は、あれはアジアの国に対する侵略戦争であり、その戦争に参加した兵隊も、無実の人を殺害した罪を負っている、と言うかもしれません。一方で、あの戦争は、米国や欧州諸国に対する自衛戦争であり、その戦争に参加した兵隊は、祖国を守った勇敢な兵士たちである、と言う人もいるでしょう。あの戦争の評価は、歴史上の話だけではなく、これからの東アジア政治を考えるうえでも重要なものであり、学者や政治家の方だけではなく、私たち一人一人が考えなければいけない問題なのかもしれません。

筆者は、先の戦争を肯定しているわけではありません。しかし筆者は同時に、その戦争に連れ出されて死んでいった兵士の方々に深い悲しみを感じ、その鎮魂を願っています。それは、作中のある登場人物のこのセリフに集約されている気がします。

まちがった戦争とはいえ、それに引き出されて死んだ若い人たちに何の罪がありましょう…(文庫版 186頁)

その想いを、筆者は、巻末の『ビルマの竪琴ができるまで』でこう語っています。

義務を守って命をおとした人たちのせめてもの鎮魂を願うことが、逆コース(注:戦後の日本の民主化の流れに逆行すること)であるなどといわれても、私は承服することはできません。逆コースでけっこうです。あの戦争自体の原因の解明やその責任の糾弾と、これとでは、全く別なことです(文庫版 206頁)

先の大戦について論じた本は、たいした数ではないですが、私もいろいろと読んできました。その中には、もちろん冷静な議論を展開しているものもありますが、戦争の評価や責任などについて、異なる立場の主張に対して攻撃的で、政治色の強い内容の本が多いような気がします。もちろん、そういう本の価値を否定するわけではありません。

しかし、本書は、そうした政治的な論争において忘れられがちな、人が人に対して持つ愛や、悲惨な運命を前に生き抜こうとする人のひたむきな姿を描くことにより、読む人に、人として大切な、暖かい何かを思い起こさせてくれるような気がします。

戦争の評価に対する立場がどうあれ、先の戦争に興味のある全ての方に、特に、私のように「戦争を知らない世代」の人たちに、心からおススメしたい一冊です。


 

ビルマの竪琴-竹山道雄-idobon.com

ビルマの竪琴(新潮文庫)
竹山道雄

Amazonで見る 楽天で見る

 

 

The following two tabs change content below.

国際関係、政治、哲学、古典に関する本が大好物。読書は絶対紙派(電子はちょっと苦手なのです…)。アコースティックギターが趣味で夜な夜な練習にいそしんでいる。ツンツンヘアがトレードマークで、ヘアカットをするときのお決まりの注文は「横と後ろはバリカンでトップは短く」。
▼ブログランキング参加中。クリック応援お願いします♪
にほんブログ村 本ブログへ にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ にほんブログ村 本ブログ おすすめ本へ

-小説, 文学・評論
-


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

関連記事

肉体の悪魔-ラディゲ-idobon.com

肉体の悪魔:ラディゲから破滅的な初恋について学ぶ

10代のころに読んでおきたい **ネタバレ注意** 人生のことがらや人との出会いと同じように、本との出会いにもタイミングというものがあって、そのタイミングが上手く合わないと、良書も本来の目的を失ってイ …

1Q84-英語版-村上春樹-idobon.com

1Q84:今まで読んだ春樹本の中で一番面白かった

私の2015年2月はほとんどこの本に吸い尽くされた 村上春樹のとんでもなく長い小説ということで、手に取ることを躊躇していた本書。 アメリカにいたときに一緒に2週間もロードトリップをした友人が、旅行期間 …

Origin-Dan Brown-idobon.com

Origin: 久々にヒットのダン・ブラウン小説

最後の最後まで目が離せない 本作はダン・ブラウン氏によるラングドン教授シリーズの最新作で、同シリーズの中では個人的にかなりヒットしました。前作の「インフェルノ」は個人的にはあまり面白く感じず(話が冗長 …

五分後の世界 村上龍

五分後の世界:戦争をやめなかった日本はこうなっていたかもしれない

かなりグロテスクだけど、学ぶべきことがある 目が覚めたら兵士に囲まれて泥沼を歩かされていた主人公の小田桐。謎の地下の空間にもぐりこむが、周りは混血児だらけ。そこは5分時間の進んだ、別の世界だった。第二 …

カラマーゾフの兄弟-ドストエフスキー-idobon.com

カラマーゾフの兄弟:真実を語ること。それが善に繋がる

何度も読み返すべき良書。その度、新しい教訓を得られる ドストエフスキーの超有名長編小説、カラマーゾフの兄弟。ようやく通読しました。5巻に至るこの小説、光文社の古典新訳だからこそ読み終えることが出来たと …