お決まりの春樹パターンは健在だけど、相変わらず引き込まれる
「騎士団長殺し」というタイトルからして、最初はバイオレントな歴史ものかなと思っていたのですが、全然違いました。
主人公は、妻に裏切られた孤独な画家。数ヶ月の放浪生活ののち、小田原にある友人の父親のアトリエであった家に引きこもります。
描きたい絵も描けないでいる中、友人の父親である雨田具彦が屋根裏に隠していた「騎士団長殺し」という絵を見つけ、そこからおかしな世界が始まっていくという内容。
近所に住む大富豪メンシキからの依頼、雨田具彦の謎、パートタイムで教える絵画教室の教え子である秋川まりえとの出会いなどが絡み合い、変な世界に引き込まれていきます。
主人公は「私」で、最初から最後まで名前が出てこないのですが、意志がなく流されているだけの人物のように見えます。
メンシキの依頼に関しても、離婚に関しても、人と寝るのに関しても、全て。
これは主人公が芸術家という設定だからなのでしょうか。
流れに任せて事が起こるのを観察し、自分の心がそれに合わせて変わってくる中で、芸術というものが起こるのかなぁと。
そしてそんなパッとしない主人公でも、春樹の小説ではご多分に漏れず、寝る相手には困らない(笑)
とかケチを付けておきながら、なかなか引き込まれました、この小説。
村井春樹はストーリーの中で何かを暗示させるのが得意だと思います。次に何が起こるんだろう?とハラハラしながらページをめくりました。
タイトルからして人殺し系かと思いましたが、そんなに血なまぐさい感じではなかったです。
でも、自分の生活の中にも、何か見えない世界への入口が潜んでいるんじゃないか?と思わせてくれるような小説です。
音楽も楽しみながら読もう
1Q84ではヤナーチェクのシンフォニエッタがテーマソングでしたが、騎士団長殺しではモーツァルトの「ドン・ジョバンニ」。
Spotifyには騎士団長殺しに出てくる曲のプレイリストがあるので、聞きながら読むと更に情景を想像しやすいですよ!
騎士団長殺し
村上 春樹
妻
最新記事 by 妻 (全て見る)
- 贖罪の奏鳴曲(ソナタ):悪人か善人か分からない主人公の行動から目が離せない - 2022年10月30日
- 五分後の世界:戦争をやめなかった日本はこうなっていたかもしれない - 2020年2月11日
- L.A.ギャップ:LAに渡った日本人の行く末 - 2020年2月5日