人と会話する機会があるなら読んで損はない本
私は健康や筋トレについて文字や会話で「伝える」ということを仕事にしているので、筆者のインタビューをBRUTUSで読んだとき、「この本は読まなければ」と早速手に取りました。
自分の発信していることが本当に伝わっているのかどうか、たまに分からなくなることがあります。ややこしい内容でも、なるたけ噛み砕いて伝えているつもりです。でもそれが、かえって長たらしく分かりにくい文章にしてしまっているのではないか。そんな不安があります。
電通で20年以上コピーライターをしてきた山本高史さんによる本書では、伝えることについて長年考えに考え抜いてきた、筆者の脳内を覗くことができます。
一環したメッセージは、「受け手は勝手」であるということ。コミュニケーションにおいて、受け手は強者で伝え手は弱者。本当に言わんとしていることを伝えるには、伝え手は受け手のルールに則ってプレイしなければならない、といった内容でした。
伝わらないのは受け手の立場に立っていないから。でも受け手の立場を経験したことないのに、いったいどうやったら想像できるのか。本書はそんな疑問を、手取り足取りひも解いてくれます。
「脳内経験」で実際に体験していないことでも「引き出し」を増やせる
伝えたい相手が何を考えているのか、相手の立場に立つことで、伝わるコピーを作ることができます。とはいえ言うは易く行うは難し。
社会人になりたてほやほやほやだった山本さんは、主婦向けの商品のコピーを任されます。が、料理もしたことない彼が主婦に刺さる広告の文言なんて思いつくわけがない。そこで至ったのが「脳内経験」という思考法です。
例えば、どこかでラーメンを食べたとします。それで「まあまあおいしい」と思ってそれで考えるのをやめてしまえば、それで終わってしまいます。
そこを、なぜ美味しいのか?なぜ売れているのか?なぜ味玉の相場は100円くらいなのにこの店は150円なのか?家賃が高いからか?50円のギャップが家賃の補填になるのか?などなど深く思考を掘り下げていきます。そうすることで、「脳内データベース」が豊富になり、いわゆる引き出しが増えていくというのです。
早速電車の中などでやってみましたが、いささか楽しかったです。
山本さんの言う通り、スマホをいじるより数百倍楽しいし、思いがけない視点に気が付くことができます。
誤解されやすい言葉は使わない
コミュニケーションを円滑にする上で、誤解されやすい言葉は使わないということも、勉強になりました。
例えば、「姑息」の本来の意味は「一時しのぎ」という意味ですが、「卑怯な」という間違った意味で使われることが多いです。
でも、そのことすら知らない人が多いので、一時しのぎという意味で使ったつもりなのに卑怯だとと言われたと誤解されることがあります。だったらその言葉自体使うのはやめた方がいい、と山本さんはいいます。
受け手は勝手なので、あいまいな言葉はつかわないが吉。覚えておこうと思います。
本書は書き物をする人にかぎらず、人と会話をする機会のある人なら、読んで損はないと思います(要するにみんな)。
思いやり、と書くと一気に安っぽい感じになりますが、伝わるコミュニケーションとは、受け手の立場をこれでもかというくらい想像できる力が必要とされるのかもしれません。
言葉のテクニシャンが書いた本なだけあって、読みやすいのですぐ読めます。
伝わるしくみ
山本高史
妻
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