外国文学 小説 文学・評論

エマ:全てに恵まれた傲慢な若い女性の自己成長の物語

投稿日:2018年7月30日

エマ(上)岩波文庫-ジェーン・オースティン-idobon.com

読みにくいが最後まで読む価値がある作品

ノーサンガー・アベイ、高慢と偏見と続けてジェーン・オースティンの本を読んできましたが、「エマ」は上記2作に比べて読みやすさで言うと難易度が高い作品だと感じました。岩波文庫では上と下に分かれていますが、下の半分以降にならないと、主人公に好感度のコの字も感じられないというのが大きい。だからと言って、読むに値しない作品という訳ではありません。主人公とその周りを取り囲む退屈な人々のお喋りに辛抱して、最後のクライマックスまで付き合えるか、ということです。また、読みにくい作品だからこそ、読み終わってから考え、意味を考えることが出来るとも言えます。

オースティンはエマについて「わたし以外には誰も好きにならないような女」と言っています。確かにエマは傲慢で見栄っ張り、自分を過大評価しているイヤな女です。エマはお喋りで高慢ちきなミス・エルトンを嫌っていますが、皮肉なことに、読者からしてみればエマはミス・エルトンと大して変わらないのです。そんなエマにようやく好感を持ち始めることが出来るのは、後半の、エマがジェーンの健康を助けようと手を尽くすも、断られ続けるシーンからです。ジェーンはエマからは親切を受け入れたくないんだと、エマ自身が認めます。「エマは悲しかった」(下 p.224)とあります。自分の過ちを認め、それに対する他人の反応を認知することで自分の行いには必然的な結果があるのだと、エマはやっと気がつきます。この不愉快な経験こそ、結果的にエマが成長するきっかけになる良い経験となります。

その他にも、自信過剰だったエマには、自分の見解が物凄く間違っていたことに気付く様な出来事がいくつか立て続けに起こります。そして、エマはようやく自身の心を理解し、心の中は自分が思っていたより悪かったことに気付きます。 「心のほかの部分はへどが出るほど嫌だった」(下 p.257)と、エマは言っています。

「エマ」は金銭的、社会的境遇、そして美貌に恵まれた女性が過ちを通して成長する物語です。読み終えてみて、彼女の傲慢な姿は、自分自身に似ているんだ、だから読むのが苦痛だったんだ、と気付かされます。幸いにも、エマには、間違った言動をしても彼女を突き放さず、常に忍耐強く正し、見守り続けているミスター・ナイトリーという存在がいます。世の中の全ての傲慢で無知な女性に、ミスター・ナイトリー的存在が身近に居て、正し続けてくれることを願います。私も、そんな高貴な人物に突き放されることがないよう、常に批判にはオープンでありたいと思わされました。


 

エマ(上)岩波文庫-ジェーン・オースティン-idobon.com

エマ〈上〉 (岩波文庫)
ジェーン・オースティン(作)、工藤政司(訳)

Amazonで見る 楽天で見る

 

エマ(下)岩波文庫-ジェーン・オースティン-idobon.com

エマ〈下〉 (岩波文庫)
ジェーン・オースティン(作)、工藤政司(訳)

Amazonで見る 楽天で見る

 

 

The following two tabs change content below.

妻の姉

歴史小説や古典、社会学系の本など、幅広く読む。ウエディングドレスデザイナーなのでファッション系の本も好き。妹以上にモノを増やしたくない派なので、本は基本的に図書館で借りる。2児の母。時には辛口レビューを書くこともある。
▼ブログランキング参加中。クリック応援お願いします♪
にほんブログ村 本ブログへ にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ にほんブログ村 本ブログ おすすめ本へ

-外国文学, 小説, 文学・評論
-


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

関連記事

Tom Clancy's Full Force and Effect(米朝開戦)-Mark Greaney

Tom Clancy’s Full Force and Effect(米朝開戦):リアリティ&スリル満点のサスペンス小説

多読教材としてもグッド トム・クランシーは言わずと知れた大物作家ですが、彼の世界観を引き継いで、著者のグリーニーが新たなジャック・ライアン伝説を紡いでいます。本家と比べても遜色なく、クランシーのファン …

五分後の世界 村上龍

五分後の世界:戦争をやめなかった日本はこうなっていたかもしれない

かなりグロテスクだけど、学ぶべきことがある 目が覚めたら兵士に囲まれて泥沼を歩かされていた主人公の小田桐。謎の地下の空間にもぐりこむが、周りは混血児だらけ。そこは5分時間の進んだ、別の世界だった。第二 …

ピンクとグレー-加藤シゲアキ-idobon.com

ピンクとグレー:スピード感のある物語だが・・・ネタバレ注意

ティーネイジャーにはうけるのかも。でも深みに欠ける感はぬぐえない 14歳のおともだちから勧められました。最近読んだ本で、これ面白かったよって。アイドルが書いた本だそうで、読むの気乗りしなかったのですが …

美しく怒れ-岡本太郎-idobon.com

美しく怒れ:ハッとさせられるところの多い本。日本人が忘れがちな大切な視点を教えてくれる

岡本太郎さんに叱られて人生を見つめなおそう 20世紀を生きた芸術家、岡本太郎さんが日本人の生き方について熱く物申す本です。 この本は2011年初版ですが、岡本太郎さんは96年没。それ以前に太郎さんによ …

嘘つきアーニャの真っ赤な真実-米原万里-idobon.com

嘘つきアーニャの真っ赤な真実:知らなかった東欧・中央の共産主義世界が読み取れる

少女時代をプラハのソビエト学校で過ごした米原万里さんの回想録 共産党員の娘としてうまれた米原万里さんは、父の仕事の関係で9歳~14歳プラハで過ごし、現地学校ではなくソビエト学校に通われます。この本は、 …