最低な男の欲望の末とは…
ベラミというニックネームのデュロイはノルマンディーの田舎の出。そんな彼があの手この手を使って出世を目指し、社会的地位をのし上がっていく様子が精力的に描かれた本です。彼の飽くことのない欲望の傍に、人生で必ず直面する問題が常にちらつきます。それは死。死とは?友人のフォレスチェの死や、思いがけない決闘によって直面する自身の死などから、私たちは必ず老いていく、そして死は知らぬ間に私に近づいていることを考えさせられます。
デュロイは本当に最低な男なんです。女ったらし、嘘つき、自分の欲望のためなら大切な人を蹴落とすことも平気。それでもその突き動かされたような勢力に、そして若さと美貌に参ってしまう女性の気持ちも分からないでもない…。
人生における満足とは?飽き足らないデュロイの欲望は何によったら満たされるのだろう。女を手に入れ、お金を手に入れ、社会的地位を手に入れたらデュロイは満足し、幸せになれるのだろうか。
デュロイについて読むとき、ドリアン・グレイの肖像を思い出しました。ドリアンとデュロイが入れ替わっても、肖像画は同様に物凄い実態を表す醜いものになっているのは疑いないと思う。
パリの生活の描写が素敵
ちなみにもう少し明るい話題として、本書はパリの暮らしぶりを教えてくれるささやかな描写が楽しい。よく「フランス人はお金を使わず素敵に暮らす!」なんて本が本屋さんのインテリアコーナーとかに置かれていますが、まさにそんな感じ。19世紀のモーパッサンが生きていた時代にも、そのような暮らしぶりが見られたのですね。
例えば、まだ出世する前のデュロワはみすぼらしいパリの一人暮らしをしていましたが、ある日愛人がアパートに訪れることに。そのアパートをなんとかデコレーションする。小さな扇子や衝立を飾って壁紙の染みを隠し、「宵の口は、残った色紙かは切り抜いた鳥を天井に貼って過ごした 」(p.115)。
フランス人はプレゼンテーションの上手さで有名ですが、こんなところにも垣間見れるなんて!しかも独身男性がこのように恋人を迎えるために部屋をデコっているなんて可愛すぎる。お金をかけずに楽しむってこんなことですね。
他にも、「市場で見事な梨を手に入れて、カゴに入れ丁寧に紐で結わえてプレゼントする」(p.150)。お金がなくても素敵に暮らすアイディアですね。
欲望、死、人生の満足、恋愛のあり方・・・。色々なことを考えさせられる本。次はモーパッサンの「女の一生」を読もうと思います。
ベラミ
モーパッサン
妻の姉
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