かなりグロテスクだけど、学ぶべきことがある
目が覚めたら兵士に囲まれて泥沼を歩かされていた主人公の小田桐。謎の地下の空間にもぐりこむが、周りは混血児だらけ。そこは5分時間の進んだ、別の世界だった。第二次世界大戦後も降伏せずに戦い続けて、人口が26万人に減ってしまった日本。地下にある「アンダーグラウンド」で暮らす日本人以外は、アメリカやロシアや中南米からの占領により混血化が進んでいる。小田桐は「連合軍」とのゲリラ戦に駆り出され、元の世界に戻ろうとするが…?
というあらすじです。
村上龍さんの特徴として、読点「、」が大量に使われた長い文章で、読みにくいと感じました。
そしてかなりグロテスク…。平気で人が殺される生生しいシーンが続くので、グロがNGな方は読まない方がいいと思います。
でもグロなのに読み続けてしまったのは、戦争をやめなかった日本がどうなっていく可能性があったかに興味があったから。村上龍さんは本作を「過去最高の作品となった」と言っています。
この本で描かれる日本は、第二次世界大戦とその後の過ちを振り返り、戦い続けることを誇りとした世界。国民全員がその一つの目標に向かって努力していて、そのために非常に無駄がなく合理化されている。今の日本とは真逆の世界と感じました。
「五分後の世界」は差別がない世界です。朝鮮民族も、アイヌ民族も、職業間も、差別がない。
すべての差別は、勇気とプライドのないところに、世界にむかって勇気とプライドを示そうという意志のない共同体の中に、その結束と秩序を不自然に守るためにうまれるものです。―p125
はっとさせられる言葉です。
最近「マウンティング」という言葉が流行っているようですが、これも日本人全体として目指すものがなくなってしまったため、一時的に帰属する会社や地位で自分の優位性を示そうとする、悲しい行為に思えます。また、「マウンティングされた」と気に病む方も、自分の人生の土台とするものがないために、一時的に帰属しているコミュニティやその時持っている財産などで、自分の価値を決めようとしてしまうからなのでは。
そして、五分後の世界には敬語もありません。
敬語は責任の所在を曖昧にすることがある、伝達のスピードも落ちる。―p171
敬語に関してコメントするシーンがちょいちょい出てくるのですが、ここが痛快。
よくぞ言ってくれた!という感じです。
言わせていただくとか説明させていただくとかいったい誰が使い始めたんだ、そういう妙な日本語は禁止せよ、貴様は誰かに許可を得たり誰かに依頼されて話しているのか?自分の意志と責任で話しているのだろう?言います、説明します、で十分ではないか。―p175
…ごもっともです。
どれも村上龍さんが、今の日本について言いたいことをぶつけた!という感じがします。
そして戦闘で死に瀕した人間が、どんな反応をするのか。その描写がとてもリアルです。
平和ボケしている現代の日本人に、村上龍さんはカツを入れたかったのかもしれません。1997年に書かれた本ですが、20年以上経った今でも刺さります。
五分後の世界
村上龍
妻
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