嵐が丘
「リア王」、「白鯨」と並んで三代悲劇と言われた本に希望を見出す
「次、何読もう?」と常に考えています。そして、良書を探すためにはいつもアンテナを張っています。読書家の友達からのおすすめだったり、今読んでいる本の裏の方に載ってる関連図書だったり、ポッドキャストで聞いた本だったり。
本書、「嵐が丘」は英語の、「The Great Books Podcast」で取り上げられて、読むリストに追加しました。そのポッドキャストでは、大学の講師や、その道に通じているプロフェッショナルなどが、本、特に古典と呼ばれるものの本を20分ほど議論します。それを聴きながら、メモを取って次に読みたい本を決めたりします。
さて、「嵐が丘」は「読むべき本!」とポッドキャストのホストたちは絶賛していましたが、正直、完読するのが辛かった本です。
なぜなら、暗い、とにかく抑圧される様に暗いんです。一言で言うと復讐劇だけれど、デュマのモンテクリスト伯とは全く別物の救いようのない闇に読者も一緒に引きずり込まれてしまいます。
そして、恋愛物だと思って読んでしまうと期待はずれです。なぜかと言うと、登場人物のヒースクリフとキャサリンとの熱烈な恋が、きっと普通の神経をしている一般人には良く理解出来ないからです。
最後までは。
この本は、完読しないと、意味がない本です。最後の50ページ、いや、30ページを読んでこそ、読む意味がある。だから、暗黒に押しつぶされそうになっても、最後まで読み進めるべき本だと言えます。
主なあらすじ
平和な嵐が丘の家庭に、ある日主人が連れて帰ってきたヒースクリフ。どこから来たのか、なんで来たのか皆知らないまま、一緒に生活を始めます。嵐が丘の主人は自分の息子、ヒンドリーよりも養子のヒースクリフを可愛がり、それがヒンドリーの反感を買うことになります。ヒースクリフはその家庭の妹にあたるキャサリンと仲良くなり、次第にお互いは恋に落ちます。キャサリンもヒースクリフを愛していましたが、ひょっとした出来事から、ヒースクリフはキャサリンが隣の家に住んでいるエドガーを好きなのだと誤解して、怒りから家を出て行ってしまう。数年後帰ってきたヒースクリフは、ヒースクリフを裏切ったキャサリンと、ヒンドリー、そしてキャサリンの夫になったエドガーに復讐を始めます。その復讐は、キャサリンとエドガーの娘のキャサリン・リントン、ヒースクリフ自身の息子のリントン・ヒースクリフ、ヒンドリーの息子のヘアトン・アーンショーからなる次世代にも及びます。
復讐劇を繰り広げるヒースクリフは悪魔的です。ここまで他人への不幸を願い、作戦を練って何年にもかけて遂行し届けられる人がいるのか、と思うほど。しかし、この世にはヒースクリフに象徴されるような、悪魔的な人、出来事、現象が存在するのかもしれません。
それにどのように、打ち勝つのか。立ち向かっていくのか。その悪は何を嫌がるのか。この小説はただの柔い恋愛小説ではなく、もっと大きな題材を扱っているんだと理解すると、途端にこの本に深みが出てきます。読む価値を実感出来ます。
ヒースクリフが切望したような、いがみ合いと憎悪からなる関係に、次世代のキャサリン・リントンと兄の息子ヘアトンはなりませんでした。エドガー・リントンが亡くなり、二人残されたキャサリンとヘアトンは、次第にお互いに歩み寄って行きます。
少しずつ芽生えた暖かい感情と親密さは、二人の努力や精神の力から意図的にしたものではないようです。それは人間のサガなのか。お互い退け合うように仕向けられても、狭い世界の中で、本当にお互いしかいないと気付いたとき、二人はそれを最善の方向に持って行こうとしました。
自分の最大の努力が水の泡となったと気付いた時、ヒースクリフはまさにシャボン玉が消えるように、死んでしまいます。これは、善が悪に打ち勝ったということの象徴なのでしょうか。
読書のポイント
読みやすい本、とは言えない嵐が丘。
ポイントは、
1 めげずに完読すること
2 恋愛小説ではないと理解すること
に尽きると思います。
ヒースクリフの狂気の沙汰から、人間の本質と希望を見出せることを願って。
嵐が丘 <上>
E・ブロンテ
嵐が丘 <下>
E・ブロンテ
妻の姉
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