外国文学 小説

蠅の王:真のリーダーとは?人間の本質とは?

投稿日:2019年4月20日

無人島に残された少年の葛藤から学ぶ

もし、飛行機が墜落して、無人島に漂流したら、どうする・・・?

小説の登場人物達の状況は、まさにアメリカのドラマ、「LOST」そのもの。世界大戦の火の手を逃れて疎開先に向かう飛行機は墜落して、無人島に、到着した。ただひとつ「LOST」と違うのは、大人が居ないってこと。みんな、少年なのだ。大人がいない、楽園に見えた島での生活が、だんだんと暴力的な地獄と化していく・・・。

余談ですが、年に何回か飛行機に乗る私の一番の恐怖は、こういった墜落+無人島に取り残される状況でした。確率的に飛行機墜落事故に遭うよりも、交通事故に遭う方が高いと頭では分かっているのに、飛行機が揺れるたびに最悪の状況を予測して、手に汗を握ってしまう。少しでもこの恐怖を和らげようと、メガネとコンタクトが手放せなかった私はレーシックを受けたぐらいです。とりあえず裸眼で見えれば、生き延びるチャンスも増えるだろうと。本書で、メガネをかけた「ピギー」というキャラクターが出てきます。彼のメガネの片方のレンズは暴力的な少年に割られて、ピギーはほとんどものが見えないため行動範囲が狭まってしまいます。このシーンを読んで、レーシックを受けておいて良かった!と痛感しました笑。

話が脇道に逸れてしまいましたが、少年の冒険談のように聞こえるこの物語は大変奥が深く、読み終わった後も、色々考えさせられました。

「リーダー」の意味と役割について

島での少年たちは、自然と誰か統率してくれる人を求め、選挙で「隊長」を選びます。これは人間の本質なのかもしれません。知らずのうちに誰か「決めてくれる人」を探している。そして、「隊長」として選ばれた主人公のラーフはリーダーの意味を考えます。

  • 単に選挙で選ばれたからリーダーなのか
  • 命令を与えるのがリーダーの役割なのか
  • どのようにリーダーとしての地位を確立するのか

ラーフと共に葛藤しながら読み進めます。

 

「言葉にすること」の重要性

リーダーとして重要なことのひとつは、「言葉にすること」です。

救助されるためには常に火を灯し、のろしをあげることの重要さを感じているラーフですが、他の少年たちにその重要さが上手く伝わらない。言葉に出来ないもどかしさ、大切なことを伝えたいけど上手く伝わらない無念さ。他の子は、遊びや豚狩りなど目先のことに囚われて、長期的なビジョンで物を考えることが出来ません。

そんな子供達に対しての、「リーダー」という肩書きに見合った行動をとれなれなかったラーフ。

結局、ラーフと対立するジャックに実質的にはリーダーの地位を取られてしまいます。ジャックは正に悪の象徴のようなキャラクター。ゴールディングの生きた時代ではジャックが社会主義政権を示唆しているのでしょうか。

暴力と権力の乱用によって子供達を統率するジャック。従わない者は暴行され、容赦無く罰を受けます。

 

悪が生き延び、善は負ける。

ラーフが象徴する善も完璧な善ではなく、善になりたいと願う心、葛藤があるだけまだましという程度の全です。

 

人間は原罪により腐敗した状態で生まれ、その状態はたとえ、ラーフやジャックのような少年であっても同じなんだという、全的堕落を象徴したような本です。

ジョージ・オーウェルの動物農場と併せて読みたい名作です。


 

蠅の王
ウィリアム・ゴールディング

Amazonで見る 楽天で見る
The following two tabs change content below.

妻の姉

歴史小説や古典、社会学系の本など、幅広く読む。ウエディングドレスデザイナーなのでファッション系の本も好き。妹以上にモノを増やしたくない派なので、本は基本的に図書館で借りる。2児の母。時には辛口レビューを書くこともある。
▼ブログランキング参加中。クリック応援お願いします♪
にほんブログ村 本ブログへ にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ にほんブログ村 本ブログ おすすめ本へ

-外国文学, 小説
-


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

関連記事

エイジ・オブ・イノセンス 汚れなき情事-イーディス・ウォーデン-idobon.com

エイジ・オブ・イノセンス:不幸な三角関係って分かっているはずなのに…

エイジ・オブ・イノセンス 人生白黒そんなにはっきりしているもんじゃない。そんな複雑さを良く表現している **ネタバレ注意** 映画にもなったこの小説、言ってしまえば19世紀版不倫小説なんです。悩み事を …

五分後の世界 村上龍

五分後の世界:戦争をやめなかった日本はこうなっていたかもしれない

かなりグロテスクだけど、学ぶべきことがある 目が覚めたら兵士に囲まれて泥沼を歩かされていた主人公の小田桐。謎の地下の空間にもぐりこむが、周りは混血児だらけ。そこは5分時間の進んだ、別の世界だった。第二 …

ビルマの竪琴-竹山道雄-idobon.com

ビルマの竪琴:人としての大切なものは何かを考えさせてくれる小説

読むと思わず胸が熱くなる 本書は、ビルマ(現在のミャンマー)を舞台に、第2次世界大戦中に派遣された日本の兵士の方々の、戦争中の様子から戦争後に帰国するまでの様子を描いたフィクションです。この物語は、昭 …

Origin-Dan Brown-idobon.com

Origin: 久々にヒットのダン・ブラウン小説

最後の最後まで目が離せない 本作はダン・ブラウン氏によるラングドン教授シリーズの最新作で、同シリーズの中では個人的にかなりヒットしました。前作の「インフェルノ」は個人的にはあまり面白く感じず(話が冗長 …

王国-中村文則-idobon.com

王国:スリラー、暴力、セックスシーンで飾り立てられた男性優越的な小説

『こんにちは、妻です。読書好きな妻の姉もたまに寄稿してくれることになりました。ところが・・・しょっぱなからかなりお怒りのようです。』 『どうも妻の姉です。よろしくお願いします!この本には怒りすぎて、妹 …