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モデラート・カンタービレ:短いけど不思議な感覚を残す小説

投稿日:2020年2月26日

モデラート・カンタービレ マルグリット・デュラス

フランス語で読もうとしたが挫折…

私はフランス語を勉強しています。フランス語は、英語の10倍以上難しく感じます。特に文法。名詞に男性と女性があるし、その名詞が文中にいる時は、形容詞もそれに合わせなくてはいけない。また複数になると形容詞の形も変わる。名詞には男も女もない英語にサマサマをつけたくなったし、そもそも単数も複数も関係ない日本語、なんて簡単なんだ!と感動。

そんな最中に出会った本がマルグリット・デュラスのモデラート・カンタービレです。9月に行った旅行先、ボストンの古本屋で買いました。米国旅行に行く楽しみの一つが古本屋を探索すること。洋書は日本で買うと割高というのもありますが、洋書の見た目が好きなんです。特に「Classic」と呼ばれる古典の本はカバーが素敵。日本の文庫みたいに持ち歩きに便利ではないけど、本棚に入っているとなんだかインテリになったような気を抱かせてくれる、洋書を紙で持つのは好きです。古本屋で、そうだ、フランス語の本あるか見てみようと思って巡り合ったのがこちら。ページ数80ページ強で、マルグリット・デュラスは聞いたことがない作家だったけれど、2ドルで購入。日本に持って帰ってきました。

まずはフランス語で読むのにチャレンジ。でも勉強し始めて6ヶ月ほどの私の仏語力だと、20%ぐらいしか理解できませんでした。気を取り直して、日本語で読んでみました。感想は、とても不思議な本。たったの80ページを、ものすごい時間をかけて作り上げている。短いから、無駄がない。読み終わった感覚は、物語がどこから始まって、どこで終わるのか、分からない、時間枠が曖昧になる。映画の「メメント」(https://ja.wikipedia.org/wiki/メメント_(映画))を見た感覚と似ています。真実は一体何なのか。どこまでが想像の中の産物なのか。読者に考えさせる本です。

あらすじはこんな感じ

主人公はアンナ・デパレート。裕福で、子供が一人いる。子供のピアノレッスンに付き添いしたある日、近くのカフェから悲鳴が聞こえる。殺人事件だった。男が、女を殺し、死体に抱きついている。その事件があった日から、アンナはそのカフェに毎日取り憑かれるように通うようになる。そこで夫の会社で働く、労働者の若い男、ショーバンに会う。毎日二人はたくさんのワインを飲み、事件の空想を語り合う。何不自由ない生活をしていながら、倦怠に満ちていて退屈し、抜け出したいと思っているアンナ。そんなアンナを連れていこうとするショーバン。二人が会い始めてから7日めに、アンナが立ってカフェを出て行くところで話は終わる。始めの殺人事件のカップルはアンナとショーバンで、時系列が逆に描かれていたのか、それとも全く別人なのか、それは読者の想像に任せる、といったような終わり方です。

小説の中では何も起こらない。アンナは夫の元を去らないし、子供は相変わらず行きたくないピアノレッスンに行き続ける。何も起こらないからこそ、アンナの倦怠が心に迫るように伝わってくる。胸が苦しくなるようなマグノリアの香り。ワイン。そしてまたワイン。

80ページの中にこんなに息の詰まるような思いが詰まっているなんて。とてもよくできた中編小説です。


 

モデラート・カンタービレ マルグリット・デュラス

モデラート・カンタービレ
マルグリット・デュラス

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妻の姉

歴史小説や古典、社会学系の本など、幅広く読む。ウエディングドレスデザイナーなのでファッション系の本も好き。妹以上にモノを増やしたくない派なので、本は基本的に図書館で借りる。2児の母。時には辛口レビューを書くこともある。
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