無人島に残された少年の葛藤から学ぶ
もし、飛行機が墜落して、無人島に漂流したら、どうする・・・?
小説の登場人物達の状況は、まさにアメリカのドラマ、「LOST」そのもの。世界大戦の火の手を逃れて疎開先に向かう飛行機は墜落して、無人島に、到着した。ただひとつ「LOST」と違うのは、大人が居ないってこと。みんな、少年なのだ。大人がいない、楽園に見えた島での生活が、だんだんと暴力的な地獄と化していく・・・。
余談ですが、年に何回か飛行機に乗る私の一番の恐怖は、こういった墜落+無人島に取り残される状況でした。確率的に飛行機墜落事故に遭うよりも、交通事故に遭う方が高いと頭では分かっているのに、飛行機が揺れるたびに最悪の状況を予測して、手に汗を握ってしまう。少しでもこの恐怖を和らげようと、メガネとコンタクトが手放せなかった私はレーシックを受けたぐらいです。とりあえず裸眼で見えれば、生き延びるチャンスも増えるだろうと。本書で、メガネをかけた「ピギー」というキャラクターが出てきます。彼のメガネの片方のレンズは暴力的な少年に割られて、ピギーはほとんどものが見えないため行動範囲が狭まってしまいます。このシーンを読んで、レーシックを受けておいて良かった!と痛感しました笑。
話が脇道に逸れてしまいましたが、少年の冒険談のように聞こえるこの物語は大変奥が深く、読み終わった後も、色々考えさせられました。
「リーダー」の意味と役割について
島での少年たちは、自然と誰か統率してくれる人を求め、選挙で「隊長」を選びます。これは人間の本質なのかもしれません。知らずのうちに誰か「決めてくれる人」を探している。そして、「隊長」として選ばれた主人公のラーフはリーダーの意味を考えます。
- 単に選挙で選ばれたからリーダーなのか
- 命令を与えるのがリーダーの役割なのか
- どのようにリーダーとしての地位を確立するのか
ラーフと共に葛藤しながら読み進めます。
「言葉にすること」の重要性
リーダーとして重要なことのひとつは、「言葉にすること」です。
救助されるためには常に火を灯し、のろしをあげることの重要さを感じているラーフですが、他の少年たちにその重要さが上手く伝わらない。言葉に出来ないもどかしさ、大切なことを伝えたいけど上手く伝わらない無念さ。他の子は、遊びや豚狩りなど目先のことに囚われて、長期的なビジョンで物を考えることが出来ません。
そんな子供達に対しての、「リーダー」という肩書きに見合った行動をとれなれなかったラーフ。
結局、ラーフと対立するジャックに実質的にはリーダーの地位を取られてしまいます。ジャックは正に悪の象徴のようなキャラクター。ゴールディングの生きた時代ではジャックが社会主義政権を示唆しているのでしょうか。
暴力と権力の乱用によって子供達を統率するジャック。従わない者は暴行され、容赦無く罰を受けます。
悪が生き延び、善は負ける。
ラーフが象徴する善も完璧な善ではなく、善になりたいと願う心、葛藤があるだけまだましという程度の全です。
人間は原罪により腐敗した状態で生まれ、その状態はたとえ、ラーフやジャックのような少年であっても同じなんだという、全的堕落を象徴したような本です。
ジョージ・オーウェルの動物農場と併せて読みたい名作です。
蠅の王
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妻の姉
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