韓国での女性の扱いは日本のバブル時のよう
韓国人と日本人のハーフの娘を持つ友人が、旦那さんに勧められて読んだというので、私も興味を持って読んでみました。
本書は韓国ではベストセラーになっています。
ストーリーは、キム・ジヨン氏という名のいたって普通の女性が、育児うつを発症するところから始まります。キム・ジヨン氏は精神科医に通い、そのカルテを通して彼女の人生が語られていきます。
そして、ジヨン氏の誕生からさかのぼり、韓国に残る古い男尊女卑感にふれるエピソードがつぎつぎと出てきます。
フェミニズムの小説なので、ネガティブな面が強調されているところはもちろんあると思いますが、韓国の女性差別がこんなにも色濃いとは知りませんでした。
事務職じゃなくてもオフィスでのお茶汲みは当たり前、女性は雇ってもらえない、タクシーは女性だとなかなか乗せてくれない、妊婦なのに席を譲ってもらう時に嫌な顔をされるなど、日本で同じことが起こったら炎上しそうなシーンがたくさん描かれています。
この本を紹介してくれた友人いわく、韓国での女性の扱いはバブル時の日本くらいとのこと。
女性の大統領もいたくらいだし、日本よりアメリカナイズされている印象があったので、女性の地位は日本より進んでいるのかと思っていましたが、意外でした。
女の子が大切にされない時代
ジヨン氏の母親の時代についても描かれていますが、兄弟が進学をするため、姉妹が出稼ぎに行くことが一般的であったといいます。家族の名誉は男の子の功績にかかっていて、それを家族全員がサポートする。それが今の団塊の世代が若い時の一般家庭の姿であったとか。
今の30代が産まれた世代にも、女の子の堕胎が耐えなかったそうです。ジヨン氏の母親は3人目も女の子を妊娠し、義母に「申し訳ありませんでした」と謝り、中絶してしまいます。
その後男の子が産まれると、その子はあらゆる面で優遇されます。食べ物も一番美味しそうな部分は弟に。弟は家事を手伝わなくても良い、弟だけ一人部屋、などなど。
学校教育でも、男子より女子の方が校則が厳格だったり、給食の順番は男子が先で、食べるのが遅いと女子だけ怒られる、といったシーンがありました。
キムパ屋の子はキムパ屋にしかなれない
「キムパ屋の子はキムパ屋」という風潮があるのだと、韓国に長年住んでいた友達が言っていました。キムパとは、韓国風海苔巻きのことですが、キムパ屋の出の人が、親より高学歴になって社会で成功するというのは、韓国ではすごく難しいことなのだとか。
この本を読んでいると、キム・ジヨン氏が感じているそんな無力感のようなものがひしひしと伝わっていきます。結婚して妊娠しても、産休・育休の制度が整っていないから辞めるしかない。もっと他の職に就こうにも、資格を取らなければならず、取るためには学校に通わねばならず、通うためには子供を預けなければならず、預けられないから動きようがない。
そんなシーンを読みながら、オンライン学習とかフリーランスとか、もっと他にやりようがあるんじゃないかなとかつっこみしつつも、キム・ジヨン氏はそういう風に育てられてきたから、他にオプションがあるなんて知るきっかけもなかったのかもしれません。社会や環境のがんじがらめになった、女性の無力感を感じました。
日本もこういう時代があって、先輩の女性たちが戦ってきてくれたからこそ、産休・育休も取りやすくなったし、女性はお茶くみが当たり前なんて会社も減ってきています(まだあるのかもしれないけど)。
一方で、この小説に書かれていることと全く同じことが、日本でも起こっている現実もあります。保育園とか、女性のキャリアのこととか、まだまだ課題はあります。
ですが、日本社会だって着実に進歩しているんだなと、お隣の韓国社会の一部を見て、改めて思わさたのでした。この小説を読んで、絶望して社会を批判するのではなく、女性がもっと生きやすくなるために個人として何ができるか、それぞれが考えるきっかけになるといいですよね。
82年生まれ、キム・ジヨン
チョ・ナムジュ (著), 斎藤 真理子 (翻訳)
妻
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