IQ70の人が天才になる話
主人公のチャーリィは32歳なのに幼児なみの知能しかない知的障害者。複雑なことは理解できないですが、パン屋の雑用として働かせてもらっていました。ですが、ある時大学の研究対象に選ばれ、知能を上げる手術を受けられることになります。
すでに同じ手術を受けているネズミのアルジャーノンは、知能が劇的に上がり、しかもその知能を保持し続けています。人間に施すのは初めてですが、見事成功し、チャーリィはIQ70から、IQ180の天才になってしまいます。
手術を受けてからたった数ヶ月のうちに、チャーリィは20か国語を習得し、多くの学問に精通するようになります。しまいには、自分が対象となった研究に取り組み、大学教授たちをも凌駕する理論を見つけてしまいます。
知能が上がって色々見えてくると、友達だと思っていた人々が、実は自分をバカにしていたのだと気付いてしまいます。また、過去の記憶で理解できなかったことも、はっきり分かるようになってきてしまい、それがチャーリィを苦しめます。
知能は天才並みでも、チャーリィの感情レベルはまだ子供のまま。知識をひけらかしたり、皮肉なことを言うようになってしまい、社会から孤立してしまいます。
ネタバレになる前にあらすじはここまでとして・・・。
本書は1959年にに出された本ですが、2015年に出されたハヤカワ文庫の新刊を読みました。
まず思ったのが、翻訳が秀逸。
ストーリーはチャーリィが書いた「経過報告」として語られていくのですが、最初の方はほとんどひらがなで、誤字脱字ばかり。
最初は「けえかほおこく」だったのが、知能が上がっていくにつれて、「経過報告」が書けるようになり、どんどん漢字が増えていきます。
チャーリィの知能が最高になると、もう言っていることが分けわからない。ある意味こちらの知能を試されているようです(笑)。
知識と知恵は違う
この本を読んですごく思ったのが、知識の使い方は気を付けなくてはならないのだな、ということ。
知識と知恵は違って、知恵のある人は知識をひけらかさない。
知識しかない人は、知識をひけらかしてひんしゅくを買う。
知識を得たてのチャーリィは、これをやってしまって、反感を買ったのかなと思います。
チャーリィ目線で書かれているので具体的に何が起こったのかは分かりませんが、天才になったチャーリィはパン屋を首になってしまいます。理由は、鼻持ちならない奴だと思われたから。パン屋にはチャーリィをバカにしてくる人もいましたが、優しく面倒を見てくれる人もいました。でも、その人でさえもチャーリィは敵に回してしまったのです。
知恵のない知識は、もろ刃の剣になりうる。
と読んでいて再認識させられました。
聖書の箴言では、知恵の大切さをさんざん語っていますが、こんな箇所がチャーリィと重なりました。
悟りのある者のくちびるには知恵があり、思慮に欠けた者の背には杖がある。
知恵のある者は知識を蓄え、愚か者の口は滅びに近い。―箴言10篇13-14節高ぶりが来れば、恥もまた来る。知恵はへりくだる者とともにある。―箴言11篇2節
本当に知恵のある人なら、相手のレベルに合わせて話してあげるし、相手が傷つかないように言い方を工夫したりするでしょう。
そういった「思いやり」の能力は、IQではなくEQです。
本当の意味での知性とは、EQの方なのでは、と思います。
ちなみに「アルジャーノンに花束を」は過去に映画化されており、日本でも山下智久主演でドラマ化していたのですね。でも山ピーがチャーリィだとイケメンすぎて気が散ります(笑)。
アルジャーノンに花束を
ダニエル キイス (著), 小尾 芙佐 (翻訳)
妻
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