人生の本質をまとめた10カ条
本書のサブタイトルにもある「逆説の10カ条」は、元々著者のケント・M・キース氏がハーバード大の二年生だった頃に、高校の生徒会のリーダーたちに向けて書いたものでした。逆説の10カ条は、この時書いた『静かなる変革―生徒会におけるダイナミックなリーダーシップ』という小冊子の一部でしたが、その印象的なメッセージが時を旅してマザーテレサの言葉として知られるようになったのです。
この言葉はよく教会の説教などでも取り上げられるので、私もマザーテレサの言葉として聞いたことがあったのですが、元をたどるとこの本の著者の言葉であったことは初めて知りました。
キース氏はハワイ州の政府機関の局長や州知事の閣僚、私立大の学長、YMCAのリーダーなどを務めてきた方です。本書からも、高校時代からリーダー的な存在であり、「人を率いる人」を教育することに情熱をかけて生きてきた方であることがよくわかります。
その逆説の10カ条というのは、こうです。
1.人は不合理で、わからず屋で、わがままな存在だ。それでもなお、人を愛しなさい。
2.何か良いことをすれば、隠された利己的な動機があるはずだと人に責められるだろう。それでもなお、良いことをしなさい。
3.成功すれば、うその友だちと本物の敵を得ることになる。それでもなお、成功しなさい。
4.今日の善行は明日になれば忘れられてしまうだろう。それでもなお、良いことをしなさい。
5.正直で素直なあり方はあなたを無防備にするだろう。それでもなお、正直で素直なあなたでいなさい。
6.もっとも大きな考えをもったもっとも大きな男女は、もっとも小さな心をもったもっとも小さな男女によって撃ち落されるかもしれない。それでもなお、大きな考えをもちなさい。
7.人は弱者をひいきにはするが、勝者のあとにしかついていかない。それでもなお、弱者のために戦いなさい。
8.何年もかけて築いたものが一夜にして崩れ去るかもしれない。それでもなお、築きあげなさい。
9.人が本当に助けを必要としていても、実際に助けの手を差し伸べると攻撃されるかもしれない。それでもなお、人を助けなさい。
10.世界のために最善を尽くしても、その見返りにひどい仕打ちを受けるかもしれない。それでもなお、世界のために最善を尽くしなさい。
本書では、それぞれの条項にまつわるストーリーが各章につづられていきます。
どれも心にじんわりとくる文章で、胸にこみあげてくるものがありました。
衣食住や身の安全が保障された先進国の社会では、何でも利益重視、効率重視になっていくものです。ものごとをやるかやらないかの基準が、自分にとって損か得かになってしまいます。学歴や給与額が自分の価値を決めるような流れは今に始まったことではありません。でも、ネットやSNSが出てきた今は、その風潮に拍車がかかったように思えます。友達の数、フォロワーの数、閲覧数などが自分を評価する数値であるかのような錯覚にさえ陥ってしまいます。
そんな数値化されがちな世の中になってしまったからこそ、キース氏の人間の本質を突いた言葉が心に響きます。
世の中の拍手喝采がなくとも人間としての意味を見出すことができるならば、あなたは自由な人です。―p28
特にこの言葉が印象に残って、赤線を引きました。
どんなに報われないと感じる時でも、感謝されないと思う時でも、神様は見ています。
本当の意味で豊かな人生を送っている人は、人の評価など気にしないのです。
もう一つこの本で「激しく同意!!」と思ったのは、自分自身の健康をケアすることの大切さを訴えている点でした。これは私がヘルスコーチの仕事を通して伝えようとしているコトと大いに被るので、これも赤線っ!
最初に自分自身の面倒をしっかりと見ることができれば、他の人を愛し助ける能力はさらに助長されます。規則的に運動して、正しい食事を摂り、十分な睡眠をとることが大切です。スピリットを再生するために時間を取るべきです。――燃え尽き症候群にかかったりすれば、人を愛し、人を助けるエネルギーがなくなってしまいます。―p118
ポンコツのパソコンに重要なデータを処理させるのは非効率だし、リスクです。そんなこと誰だって分かるのに、どうしてひどい健康状態で仕事を詰め込んでも効率が上がらないし、人にも優しくできなくなることに気が付かないんでしょうか。食事や睡眠の時間を削ってまででも働くのが美徳とされている日本社会で、もっと多くの人が自分をケアすることを最優先するようになればと思っています。
本書は140ページ程度の薄い本ですが、大きなメッセージが詰まっています。
人生に迷いがある人、報われないと感じる人、やりたいことが見つからない人、心が疲れてしまった人。必読です!
それでもなお、人を愛しなさい―人生の意味を見つけるための逆説の10カ条
ケント・M・キース (Kent M. Keith)(著)、 大内博 (翻訳)
妻
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