完全に普通じゃないミステリー小説
表紙の絵と裏表紙のあらすじからして、女性の誘拐の話かなと思って読み始めました。アレックスという女性は男に誘拐され、想像を絶する残忍な状態で監禁されます。普通のミステリー小説なら、ここで犯人が見つかって、女性が救出されて終わりです。しかし、この小説では誘拐は序章に過ぎず、信じられないような展開を遂げるのです・・・。
ストーリーをあまり詳細に説明するとネタバレになるので省きますが、三章構成の本書では、「アレックス」に対する目線が章ごとにガラリと変わってしまいます。「誘拐されて監禁される哀れな女」だったのが、章を追うごとに新たな秘密が暴かれていき、読み手をハラハラドキドキさせるのです。
本書はピエール・ルメートルの「カミーユ・ヴェルーヴェン警部シリーズ」という三部作の第二部作で、カミーユという身長145センチの警部を主人公に展開するストーリーです。
カミーユの部下に金持ちで貴公子のようなルイ、そしてしみったれたケチのアルマンが出てきます。それぞれの特徴がストーリーの中で面白く描写されていて、人物のキャラがありありと浮かぶようです。ルイはいつもブランドものをまとっていて、身のこなしが優雅でしなやか。アルマンは誰かと外食に行くと決まってお金を払わないし、捜査中に店の商品や食べ物をネコババする。それにカミーユの『145センチのおじさん』目線が加わって、残虐なシーンもあるミステリー小説なのに、くすくす笑ってしまうところもありました。
それからフランス人独特の皮肉っぽい表現も多く、それも面白かったです。一番ウケたのが、捜査の協力者の犬があまりにも醜いのを「犬は神がひどくお疲れのときに造りたもうた生き物に違いない」と表現していたこと。思わずしばらく笑ってしまいました。こういう皮肉ったらしいところは日本人の作家にはあまり見られないので、新鮮でした。
ストーリーはあまり話せないにせよ、まばたきするのも忘れて一気に読みました(ドライアイ!!)。第二章はグロテスクな描写も多いですが、第三章でまた新たな秘密が明らかにされ、あっと驚かされます。「カミーユ・ヴェルーヴェン警部シリーズ」の前作は読んでいないですが、「アレックス」からでも十分楽しめると思います。
その女アレックス
ピエール・ルメートル (著)、橘明美 (翻訳)
妻
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