外国文学 小説

ノーサンガー・アベイ:いわゆる「普通の女の子」のプリンセスストーリーに親近感を覚える

投稿日:2018年9月13日

ノーサンガー・アベイ-ジェーン・オースティン-idobon.com

現実的なヒロイン像であるキャサリンと、良い教師ヘンリー

19世紀の作家、ジェーン・オースティンの初期の作品であるこの物語は、主人公、キャサリン・モーランドがどれだけ典型的なヒロイン像から外れているかの説明から始まります。

キャサリンには特に突起するような美点はありません。美人でもないし、器量良しでもない。刺繍が上手なわけでもなく、絵なんて救いようのないぐらいへたくそ。

ただ、夢見るように小説が好きで、特に18世紀後半に人気があったゴシック小説を好み、大きくなるにつれて「美人とは言えなくないまでもない」ぐらいに成長する、との記述があります。

そんなヒロイン像は、世間で言うドラマ性には欠けるかもしれません。しかし、いわゆる「普通」を主人公にするオースティンの作家としての力量、鋭い人間観察力、現実的な世界観に感動させられます。

だって、殆どの私たちは、物語のプリンセスのような容貌でも境遇でもないんだもの。でも静かに見える日常生活にこそ人間のドラマが溢れている、それを楽しみ、そこから学び、成長していく、という構造に誠意が見られます。

ヘンリーは、キャサリンが間違った道に進みそうになるのを優しい助言により助けます。譴責した後は、相手を辱めないために二度とその話題を持ち出さない

ヘンリーは、ナイーブで社会経験のないキャサリンの性格的な美徳を見つけ、それを伸ばす手助けをします。その美徳とは、例えば他人の言ったことをその言葉のまま、受け入れるということ。

キャサリンの親友と称するイザベラが、「あなたは私の親友よ」と言えば、イザベラの行動が言動に伴っていなくても、それをそのまま信じて疑わない。
それはナイーブさでもあり、経験を積み重ねるにつれて研ぎ澄まされていかなくてはいけないものではあるけれど、キャサリンの純情さは美徳でもあります。

何かを言う時にそれを言葉通りにとらず、聞き手の想像や悪意で、歪んだ捉え方をしてしまう人が多い中で、キャサリンのそれはヘンリーにとって、とても魅力的に映ったのだと思います。

「ノーサンガー・アベイ」は真のプリンセスストーリーだと言えます。容姿や社会的地位ではなく、キャサリンの内面的要素に美徳を見出して、まるでお姫様のように扱ってくれるヘンリー。なんて男らしく、紳士なのだろうと感動しました。


 

ノーサンガー・アベイ-ジェーン・オースティン-idobon.com

ノーサンガー・アベイ
ジェーン・オースティン

Amazonで見る 楽天で見る
The following two tabs change content below.

体や栄養に関するマニアックな本、経済・投資関連の本、社会学系の本が好き。モノを増やしたくないので本はできる限りデジタルにしたいと思っている。ミステリー&サスペンス系の小説が好きだが、はまり込むと家事や仕事をおろそかにするのでたまにの楽しみにしている。
▼ブログランキング参加中。クリック応援お願いします♪
にほんブログ村 本ブログへ にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ にほんブログ村 本ブログ おすすめ本へ

-外国文学, 小説
-


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

関連記事

ベラミ:欲望、死、人生の満足、恋愛のあり方、そしてフランス人の暮らしぶり

最低な男の欲望の末とは… ベラミというニックネームのデュロイはノルマンディーの田舎の出。そんな彼があの手この手を使って出世を目指し、社会的地位をのし上がっていく様子が精力的に描かれた本です。彼の飽くこ …

その女アレックス-ピエール・ルメートル (著)、橘明美 (翻訳)-idobon.com

その女アレックス:毎章ごとにこんなにがらっと展開の変わる小説は初めて

完全に普通じゃないミステリー小説 表紙の絵と裏表紙のあらすじからして、女性の誘拐の話かなと思って読み始めました。アレックスという女性は男に誘拐され、想像を絶する残忍な状態で監禁されます。普通のミステリ …

脂肪のかたまり-モーパッサン-idobon.com

脂肪のかたまり:フランス文学入門に必読。さらりと読める短編

普仏戦争を背景にひとりの娼婦を描いた辛辣で皮肉な物語 以前何件かレビューを書いたバルザックとも匹敵するほど多数の小説を生み出したモーパッサンの処女作。「脂肪のかたまり」はこの短編小説に出てくるフランス …

五分後の世界 村上龍

五分後の世界:戦争をやめなかった日本はこうなっていたかもしれない

かなりグロテスクだけど、学ぶべきことがある 目が覚めたら兵士に囲まれて泥沼を歩かされていた主人公の小田桐。謎の地下の空間にもぐりこむが、周りは混血児だらけ。そこは5分時間の進んだ、別の世界だった。第二 …

The-Kite-Runner-Khaled-Hosseini-idobon.com

君のためなら千回でも(The Kite Runner):犠牲、裏切り、悔い改めのストーリー

イスラム教の世界だけどすごく聖書的なストーリーだと思った PR会社で働いていたころ、ある会社の社長のPRをする機会がありました。雑誌やオンラインメディアのインタビュー枠を取ってくる仕事だったのですが、 …