外国文学 小説 文学・評論

ベラミ:欲望、死、人生の満足、恋愛のあり方、そしてフランス人の暮らしぶり

投稿日:2020年2月17日

ベラミ モーパッサン

最低な男の欲望の末とは…

ベラミというニックネームのデュロイはノルマンディーの田舎の出。そんな彼があの手この手を使って出世を目指し、社会的地位をのし上がっていく様子が精力的に描かれた本です。彼の飽くことのない欲望の傍に、人生で必ず直面する問題が常にちらつきます。それは死。死とは?友人のフォレスチェの死や、思いがけない決闘によって直面する自身の死などから、私たちは必ず老いていく、そして死は知らぬ間に私に近づいていることを考えさせられます。

デュロイは本当に最低な男なんです。女ったらし、嘘つき、自分の欲望のためなら大切な人を蹴落とすことも平気。それでもその突き動かされたような勢力に、そして若さと美貌に参ってしまう女性の気持ちも分からないでもない…。

人生における満足とは?飽き足らないデュロイの欲望は何によったら満たされるのだろう。女を手に入れ、お金を手に入れ、社会的地位を手に入れたらデュロイは満足し、幸せになれるのだろうか。

デュロイについて読むとき、ドリアン・グレイの肖像を思い出しました。ドリアンとデュロイが入れ替わっても、肖像画は同様に物凄い実態を表す醜いものになっているのは疑いないと思う。

パリの生活の描写が素敵

ちなみにもう少し明るい話題として、本書はパリの暮らしぶりを教えてくれるささやかな描写が楽しい。よく「フランス人はお金を使わず素敵に暮らす!」なんて本が本屋さんのインテリアコーナーとかに置かれていますが、まさにそんな感じ。19世紀のモーパッサンが生きていた時代にも、そのような暮らしぶりが見られたのですね。

例えば、まだ出世する前のデュロワはみすぼらしいパリの一人暮らしをしていましたが、ある日愛人がアパートに訪れることに。そのアパートをなんとかデコレーションする。小さな扇子や衝立を飾って壁紙の染みを隠し、「宵の口は、残った色紙かは切り抜いた鳥を天井に貼って過ごした 」(p.115)。

フランス人はプレゼンテーションの上手さで有名ですが、こんなところにも垣間見れるなんて!しかも独身男性がこのように恋人を迎えるために部屋をデコっているなんて可愛すぎる。お金をかけずに楽しむってこんなことですね。

他にも、「市場で見事な梨を手に入れて、カゴに入れ丁寧に紐で結わえてプレゼントする」(p.150)。お金がなくても素敵に暮らすアイディアですね。

欲望、死、人生の満足、恋愛のあり方・・・。色々なことを考えさせられる本。次はモーパッサンの「女の一生」を読もうと思います。


 

ベラミ モーパッサン

ベラミ
モーパッサン

Amazonで見る
The following two tabs change content below.

妻の姉

歴史小説や古典、社会学系の本など、幅広く読む。ウエディングドレスデザイナーなのでファッション系の本も好き。妹以上にモノを増やしたくない派なので、本は基本的に図書館で借りる。2児の母。時には辛口レビューを書くこともある。
▼ブログランキング参加中。クリック応援お願いします♪
にほんブログ村 本ブログへ にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ にほんブログ村 本ブログ おすすめ本へ

-外国文学, 小説, 文学・評論
-


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

関連記事

騎士団長殺し 村上 春樹

騎士団長殺し:日常の中に非日常が現れる村井春樹ワールド

お決まりの春樹パターンは健在だけど、相変わらず引き込まれる 「騎士団長殺し」というタイトルからして、最初はバイオレントな歴史ものかなと思っていたのですが、全然違いました。 主人公は、妻に裏切られた孤独 …

脂肪のかたまり-モーパッサン-idobon.com

脂肪のかたまり:フランス文学入門に必読。さらりと読める短編

普仏戦争を背景にひとりの娼婦を描いた辛辣で皮肉な物語 以前何件かレビューを書いたバルザックとも匹敵するほど多数の小説を生み出したモーパッサンの処女作。「脂肪のかたまり」はこの短編小説に出てくるフランス …

The-Kite-Runner-Khaled-Hosseini-idobon.com

君のためなら千回でも(The Kite Runner):犠牲、裏切り、悔い改めのストーリー

イスラム教の世界だけどすごく聖書的なストーリーだと思った PR会社で働いていたころ、ある会社の社長のPRをする機会がありました。雑誌やオンラインメディアのインタビュー枠を取ってくる仕事だったのですが、 …

男の作法-池波正太郎-idobon.com

男の作法:大物作家が語るカッコいい大人論

カッコいい大人にあこがれる方へ 大学生時代、無性に「カッコいい大人な男」にあこがれた私は、この池波正太郎著「男の作法」に魅せられました。 筆者は、「剣客商売」「真田太平記」などの時代小説で知られた作家 …

ビルマの竪琴-竹山道雄-idobon.com

ビルマの竪琴:人としての大切なものは何かを考えさせてくれる小説

読むと思わず胸が熱くなる 本書は、ビルマ(現在のミャンマー)を舞台に、第2次世界大戦中に派遣された日本の兵士の方々の、戦争中の様子から戦争後に帰国するまでの様子を描いたフィクションです。この物語は、昭 …