洋書 社会・政治 軍事

Weapons Don’t Make War: Policy, Strategy, & Military Technology:多少古いが読む価値のある本

投稿日:2019年4月17日

Weapons Don't Make War: Policy, Strategy, and Military Technology-Colin S. Gray-idobon.com 

兵器が戦争を起こす、という幻想を吹っ飛ばしてくれる

「兵器は戦争を起こさない」という、通説に反しているようなタイトルがまず私好みです(笑) 内容は、副題にもあるとおり、政策(Policy)、戦略(Strategy)そして軍事技術=兵器(Military Techonology)の関係について考察する学術書です。この考察の中で著者は、タイトルにもあるとおり、戦争を起こすのは兵器ではなく、あくまで政治(政策)のレベルの話だという主張を唱えていきます。 

「戦争を防ぐため、軍縮を!」という声は、日本では一般的だと思います。つい先日も、トランプ大統領がINF条約(中距離核戦力全廃条約)から撤退する意向を示したとき、日本中のメディアで、「軍拡、そして戦争を招きかねない!」と否定的な論調が目立ちました。

この点、軍縮と戦争に関する筆者の主張は明快です。戦争は兵器ではなく政治が起こすものであるから、軍縮自体に戦争抑止効果はない。したがって、敵対的な政治関係にある2国間で兵器だけを仮に縮小できたとしても、それは戦争を抑止するものでもない。そもそも敵対関係にある国同士では、相互不信から軍縮自体がうまくいかず、事実米ソ軍縮などの歴史を振り返っても、意味あるかたちで軍縮は行われていない、と主張しています。唯一、軍縮がうまくいくのは、敵対関係にない国家同士、つまり軍縮そのものの必要性が薄い場合のみであり、つまり軍縮というアイディアそれ自体ナンセンスなものである、と手厳しいです。

著者のコリン・グレイ教授はアメリカ、イギリス両政府の顧問も歴任したこともある、実際の政策にも通じた著名な学者です。だからといって彼の言うことが全て正しいというわけではもちろんありませんが、豊富な実務経験と学識に裏打ちされた彼の理論は傾聴に値すると思います。

なお、本書には邦訳がなく、また、著者の英語はやや難解であるうえに現在はアマゾンなどで値段が高騰しているので、手をのばしにくい本かもしれません。しかし内容の質は極めて高く、英語がある程度できる方にはぜひ手に取っていただきたい1冊です。


 

Weapons Don't Make War: Policy, Strategy, and Military Technology-Colin S. Gray-idobon.com

Weapons Don’t Make War: Policy, Strategy, and Military Technology
Colin S. Gray

Amazonで見る
The following two tabs change content below.

国際関係、政治、哲学、古典に関する本が大好物。読書は絶対紙派(電子はちょっと苦手なのです…)。アコースティックギターが趣味で夜な夜な練習にいそしんでいる。ツンツンヘアがトレードマークで、ヘアカットをするときのお決まりの注文は「横と後ろはバリカンでトップは短く」。
▼ブログランキング参加中。クリック応援お願いします♪
にほんブログ村 本ブログへ にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ にほんブログ村 本ブログ おすすめ本へ

-洋書, 社会・政治, 軍事
-


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

関連記事

The Subtle Art Of Not Giving F**k-Mark Manson-idobon.com

The Subtle Art Of Not Giving F*ck:題名は強烈だが大切なことを学ばされる。細かいことを気にしてしまう人必読

2017年に読んだ中で最も影響を受けた本 タイトルにはかなりぎょっとさせられるのですが、汚い言葉遣いの反面、書いてあることは非常にまともで哲学的でした。 この本との出会いは、好きでよく見ているアメリカ …

分断されるアメリカ-サミュエル ハンチントン-idobon.com

分断されるアメリカ:アメリカの「分断」についての考えをひっくり返してくれる刺激的な書!

アメリカの「分断」についての考えをひっくり返してくれる刺激的な書!:分断されるアメリカ 昨年、トランプ大統領が就任する前後で文庫版で復刊され(最初の翻訳出版は2004年)、話題となった本書。著者は、『 …

大本営参謀の情報戦記 情報なき国家の悲劇-堀 栄三-idobon.com

大本営参謀の情報戦記―情報なき国家の悲劇:インテリジェンスから見る太平洋戦争の反省

インテリジェンスについて耳の痛いアドバイスが満載 本書は、太平洋戦争中、陸軍のインテリジェンス部門に勤務していた筆者が、インテリジェンスの観点から太平洋戦争を振り返る本です。平易な口調で語られる、読み …

新版北朝鮮入門-礒﨑 敦仁, 澤田 克己-idobon.com

新版 北朝鮮入門:「北朝鮮問題」の格好の入門書!

「北朝鮮問題」について知りたければまずこれを読むべし 金正恩の満面の笑顔がまぶしい本書の表紙ですが、内容はいたってまともです(笑) 仕事の関係で北朝鮮のことを調べる必要があり、いろいろと読み漁ってみた …

The Miracle Morning-Hal Elrod(ハル・エルロッド)-idobon.com

The Miracle Morning(邦題:モーニングメソッド):私の人生も朝の習慣で変わった

3年前に読んで朝の習慣を取り入れてから、かなり人生変わったと思う 2014年の終わりにあるポッドキャストを聞いていて、たまたま著者のHal Elrod(ハル・エルロッド)さんがインタビューされていたの …