人文・思想 小説

アフターダーク:一晩のうちに起こる不思議な出来事を追う

投稿日:2020年1月30日

アフターダーク 村上 春樹

変わったスタイルの小説

村上春樹の小説といえば、ちょっと孤独でパッとしない主人公が、漏れなく不思議な美女とセックスして、その美女がいなくなり…的な展開のものが多いですが、「アフターダーク」はその型にはまらない変わったスタイルの小説です。

まず、語り手が謎。

「われわれ」とよばれる、人間ともオバケともいわぬ語り手が、一夜のうちに登場人物たちにおこる出来事を俯瞰している、というスタイルです。

これ、騎士団長殺しを読んだあとだったので思ったのですが、語り手は騎士団長殺しに出てくるような「イデア」だったんじゃないかな、というのが私の勘です。だってイデアは時空を超えるけど「眺めているだけしかできない」とあるから。

騎士団長殺しは、アフターダークよりも10年以上も後に出た作品なので、元々「イデア」という名前があったわけではないと思いますが。

こんな風に他の小説との共通点を探しながら読めるのも、春樹作品の面白いところなのかもしれません。あるいは。(笑)

あらすじは、浅井マリという女の子が深夜にデニーズで読書をしていたところ、高橋という男に話しかけられます。それに並行して、マリの姉エリが眠っている間におかしな世界に引き込まれていきます。それから、デニーズ近くのラブホで中国人の娼婦を暴行して逃げた犯人のストーリーライン。と3つのスジに一晩かけて起こることが、「われわれ」によって描写されていきます。

相変わらず、引き込まれて一日で読んでしまいました!

ここからはネタバレです

読みながら、高橋というヤツはいいヤツで、高橋とマリは恋仲になるのかと期待していましたが、色々な書評を見ていると高橋は本当は信頼のおけるヤツではないのかもしれないと思わされました。

高橋が映画のラストについて嘘をついた、なんてことは書評を読んでみないとわからないですよね…。

だから、マリはそれに気付いていて、中国に留学する前に高橋と会うのは断り、帰国後のデートのお誘いもあいまいな答えをしたのかな、と。

以前ラブホに行った相手もマリの姉のエリではないと言い張りますが、もしかしたら嘘をついているのかもしれない、とありました。

でも、真相は小説からは分からないので、そのあたりも読者の憶測を促してしまうところが、春樹小説の面白いところですよね。

真夜中独特の、何かが起こりそうな、不思議な「あの感じ」を上手く表現した小説だと思います。


 

アフターダーク 村上 春樹

アフターダーク
村上 春樹

Amazonで見る 楽天で見る
The following two tabs change content below.

体や栄養に関するマニアックな本、経済・投資関連の本、社会学系の本が好き。モノを増やしたくないので本はできる限りデジタルにしたいと思っている。ミステリー&サスペンス系の小説が好きだが、はまり込むと家事や仕事をおろそかにするのでたまにの楽しみにしている。
▼ブログランキング参加中。クリック応援お願いします♪
にほんブログ村 本ブログへ にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ にほんブログ村 本ブログ おすすめ本へ

-人文・思想, 小説
-


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

関連記事

Fitness Junkie-Lucy Sykes-idobon.com

Fitness Junkie:ニューヨークのヘルス&フィットネスシーンはここまできたか

Fitness Junkie 健康&フィットネスオタクなら読みたい一冊 ニューヨークの今どきのヘルス&フィットネスシーンを織り交ぜながら、一人のアラフォーの女性のボディイメージやキャリアの葛藤 …

読書論 (岩波新書) -小泉信三-idobon.com

読書論 (岩波新書) :何度も読み返したくなる、味わい深い読書論の古典

参考になるアドバイスも満載 私が読書に目覚めたのは20歳くらいなのですが(遅いですね💦)、その際に、どういう本を、どうやって読んだらいいんだろうか?という疑問にまず遭遇しました。そこで …

パリ行ったことないの-山内マリコ

パリ行ったことないの:やりたいことを始めるのに待たなくてもいいのだと思わされる

やりたいことを始めるのに待たなくてもいいのだと思わされる 友達がオススメしてくれたこの本、タイトルと表紙の絵が可愛くてすぐさま読んでみたい気持ちになりました。数時間でサクっと読める短い小説です。 スト …

初恋(光文社古典新訳文庫)-トゥルゲーネフ-idobon.com

初恋:日常にキュンキュンさが足りていない人におすすめ

「初恋」はその名の通り、16歳の少年が初めての恋を知る話です。素直で純粋な青年の心の中をのぞいているようでキュンキュンさせてくれます。 ストーリーは主人公のヴラディミールが初恋の思い出を回想するところ …

獲物の分け前 ゾラ

獲物の分け前:18世紀後半パリ、ある女の破滅の物語

快楽を追い求めた行く末は… 時代は18世紀後半のナポレオン三世政権。オスマン計画というパリ大改造が行われ、多額の資金がパリの街に、特に不動産に流れ込んでいた時代を背景にしています。浪費と金銭主義で浮か …