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北朝鮮 核の資金源「国連捜査」秘録:スパイ小説並みに面白い

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北朝鮮制裁をめぐる裏の世界

北朝鮮をめぐる国際政治の裏の世界を垣間見た…というのが、本書を読んだ率直な感想です。北朝鮮の繰り返される核実験・弾道ミサイル発射によって、北朝鮮への制裁はこれでもか、これでもかと課されています。北朝鮮の経済は相当がんじがらめになっているはずなのに、崩壊の兆しを見せるどころか、現在も元気に核・ミサイル開発を続けているとの報道もあります。いったい、なぜ…?

本書を読んで、その謎が氷解しました!実は北朝鮮への制裁、穴だらけだったのです!本書は、国連制裁専門家パネルという、国連決議による制裁に違反する事案を操作する専門家機関で約5年間勤務した著者の回想録です。彼の回想によれば、中国やロシアなどは、北朝鮮を締め付けすぎて崩壊でもされたら困るためか、制裁違反の捜査にはかなり非協力的のようです。特に、中国やロシア国内で活動している制裁違反企業については、両国の協力が得られないために、専門家パネルの捜査も行き届かず、野放しになっているものが多いようです。

さらに衝撃を受けるのは、あれだけ「制裁、制裁!」と唄っていた日本政府も、実は多くの制裁を履行できていない現状であることには驚かされました。制裁違反の疑いのある船舶の拿捕や、違反企業の資産凍結なども、国内法の未整備で、できない現状のようです。そのことを著者は政府の役人にこのことを訴えても、「専門家パネルに文句を言われる筋合いはない!」と言って相手にされなかったそうです。政府の国内法整備が遅れている理由はわかりませんが、これでは、仮に制裁を解除されなくても、北朝鮮は核・ミサイル開発を続ける資金を容易に手に入れられてもおかしくはないな、と思わされます。私たち国民としても、「北朝鮮へ最大限の制裁を!」という威勢のいいレトリックに惑わされず、実際に政府は何を行っているのか/いないのかを、しっかりと見極める必要性を痛感されられました。

依然として米朝協議が停滞し、非核化への道筋が見えないなか、北朝鮮の核・ミサイル開発の今後、そしてこれから日本は、国際社会は何をなすべきなのか、について考えるための格好の材料を与えてくれます。内容は国連制裁の詳細な内容に入ることもありますが、文章がうまいせいか、専門的な内容にしては読みやすい本です。北朝鮮情勢に興味のある方にはぜひとも一読をおススメしたい一冊です。


 

北朝鮮 核の資金源:「国連捜査」秘録
古川 勝久

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国際関係、政治、哲学、古典に関する本が大好物。読書は絶対紙派(電子はちょっと苦手なのです…)。アコースティックギターが趣味で夜な夜な練習にいそしんでいる。ツンツンヘアがトレードマークで、ヘアカットをするときのお決まりの注文は「横と後ろはバリカンでトップは短く」。
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